2009年 12月 31日
2009年度の映画・音楽・本
今年は結構映画を観たので、まずは映画から。
(※エントリー作品は、新旧問わず、今年映画館及びDVDで観た映画とします。)
最初は、外国映画ベスト3。
◎『シェルブールの雨傘』
新たにリミックスされて映像も音楽も新鮮で美しかった。
全編歌で展開される、というとても実験的な作品だけれど、全く違和感はない。
観終わってあまりに陶然としてしまい、しばらくテーマ曲が頭から離れなかった。
この映画での、カトリーヌ・ドヌーブは奇跡的に美しい。
僕の知る限り、古今東西を通じて最も美しい女性は、この映画でのカトリーヌ・ドヌーブだと思う。
◎『グラン・トリノ』
クリント・イーストウッドの名作。
おそらく自身が主演するのはこの映画が最後だろう。
この映画については、ブログに次のように書いた。
この映画の、ラストシーンで銃で撃たれ仰向けに倒れたイーストウッドは、十字架に張り付けられたキリストの姿を模していて、荘厳で気高いものだった。
そう思って見るとこの映画全体に「汝の隣人を愛せ」という思想や愛するものを守るための「受難」の劇が流れている事に気付く。
とはいえ決して説教臭はなく、ユーモアにもあふれていて、気がつくと「自分の人生にどう幕をひくか」という主題についていつの間にか考えている。
映画を見てこれだけの濃密な経験が出来るのはまれなことだ。
ここには一人の人間がどう生きて、どう死ぬのか、美しい生き方とは何かについての一つの答えがある。
◎『幸せはシャンソニア劇場から』
1936年のパリの下町のシャンソニア劇場を舞台に、閉鎖された劇場を復活させようとするピゴワルおじさんと愛すべき仲間達の物語。
ブログに書いた下記の評に加えることはなく、とにかく美しく楽しい映画なので1人でも多くの人に見てほしいと思うのみ。
芸達者な主人公達が演じる物語にスキはなく、劇中で歌われるシャンソンが楽しい。
また新人女優のノラ・アルデネゼールが、眩しい程に美しいし、彼女が恋人と一緒に見る夜の劇場から見えるエッフェル塔は、涙が出るほど懐かしく輝く。
しかし、そこはフランス映画。
ありきたりのハッピーエンドにはならず、時代背景や人生の苦みも描かれる。
ヨーロッパ映画には、人生を成功と失敗に分け、成功を善とするような所がなく、名もない人々の哀歓を、失敗や挫折も含めて、そのまま救い上げて、そっと差し出してくれるような味わいがある。
この映画は、そんなヨーロッパ映画の美質に満ちた秀作でした。
次に日本映画ベスト3。
◎『おと・な・り』
岡田准一、麻生久美子主演の気持ちの良い映画でした。
何より、麻生久美子の良さがとても生かされていた。
アパートの壁から聞こえる音だけで次第に二人の主人公の心が繋がっていく過程を、珈琲ミルをひく音や鼻唄・フランス語会話の練習などの生活音を丁寧に掬い上げて好感が持てるし、カメラも自然で良い。
ドラマは前半はゆっくりと進み後半で動き出すそのテンポも良い。
岡田准一は内省的なカメラマン役がぴったりとはまり、麻生久美子は楚々として美しい。
(少し鼻声なのも良く、映画の中で彼女が口ずさむ歌声も心地よい。)
◎『パンドラの匣』
女優としての川上未映子の発見がこの映画を成功に導いた。
良い映画の条件として、配役、脚本、映像、音楽等があるけれど、この『パンドラの匣』はそれら全てを備え、その上に前衛的でPOPな味わいがある素晴らしい映画だった。
主役のひばりはとても新人とは思えぬ自然な演技だし、仲里衣紗演じるマー坊はコケティッシュで魅力的。
何より作家川上未映子演じる竹さんが不思議な存在感を示して圧巻だ。
脚本に無駄はなく、映像は美しく切れがある。
菊地成孔の音楽も斬新で映像を引き立てる。
随所に今まで見たことがないモダンな味わいがあり目が離せない。
◎『花とアリス』
蒼井優ファンを自認しながら今まで観ていなかった自分を恥じるほど、素晴らしい映画だった。
映画全体を流れるふんわりとした空気感。
風や雨を感じるような映像。
主演二人の自然な演技。
どれをとっても奇跡としか言いようのない完成度。
ラストシーンの蒼井優が演じる紙コップをトウシューズの代わりにオーディションでバレーを踊るシーンは日本映画史に残る名シーンだと思う。
次は、音楽。
今年は特に秋以降いままでに無いほどクラシック音楽を良く聴いた。
今年のマイブームはシューマン。
交響曲に始まったこのマイブームは、ピアノ曲、歌曲に射程を広げながらまだ来年に続きそうです。
◎シューマン交響曲全集
はまりにはまって、廉価版や中古CDショップで集めたり、図書館で借りてダウンロードしたシューマン交響曲全集は下記の5種類。
・バーンスタイン
・クレンペラー
・ポール・パレー
・サバリッシュ
・スイトナー
これにフルトヴェングラーの4番とジュリーニの3番が加わる。
どれを聴いても、今の僕にはそれぞれの味わいがあり、面白いことこの上ない。
◎ポリーニのバッハ「平均律」
ポリーニのバッハが録音されたのは今年の事件だった。
第一に引き付けられるのは、その音色の透明な美しさ。
レガートを極力廃した軽めのタッチから繰り出される音は、最高級のシャンパンの泡のように澄んでいて、聴いていてとても心地良い。
テンポは全体的に速めで、思い入れや感情からは遠いけれど冷たくはない。
ポリーニの演奏はグールドの演奏に似ているように思うけれど、グールドの演奏からは紛れもなくグールドという人間を感じるのに対して、ポリーニの演奏を聴いていると演奏者の存在を忘れてしまう。
◎クレンペラーのマーラー交響曲7番
今年のもうひとつのマイブームが、巨人クレンペラー指揮による演奏。
このマーラーも「異常」としかいいようのない遅いテンポが、聴くものを魑魅魍魎の住む異界に誘う。
最近聴いた「幻想交響曲」にもノックダウンさせられた。
最後に本。
今年はテーマに沿って複数の本を読んだ年だったなあ。
◎「下山事件」関連本
・『下山事件(シモヤマ・ケース)』(森達也)
・『謀殺 下山事件』(矢田喜美雄)
・『下山事件 最後の証言』(柴田哲孝)
何れも非常にスリリングで興味深い本だが、特に柴田の『下山事件 最後の証言』は、満州事変から戦後の東西の冷戦という昭和史とこの事件との闇の部分での繋がりにまでメスを入れ、また吉田茂、岸信介、佐藤栄作、白州次郎といった戦後日本の大物と下山事件との関連にまで触れている。また亜細亜産業で働いていた著者自身の祖父がこの事件に関与していた可能性もあることから一層追求は切実なものとなっており、読み始めるとやめる事が出来ない。
◎「松本清張」の作品
今年の本のマイブームは、松本清張。
推理小説、昭和史探求本とどれを読んでもスリリングで面白い。
来年は生誕100年。
太宰治と同じ年に生まれたこともあり、来年は映画・ドラマとのタイアップも続くだろう。
今年の松本清張原作のドラマでは、向田邦子脚本の『駅路』が圧巻。
この暮れにきて、向田さんの脚本も発売された。
◎『永遠の故郷(4部作)』(現在、「夜」・「薄明」・「真昼」まで発刊』(吉田秀和)
奥さんを亡くされて一時書くこともままならなかった吉田秀和さんの奇跡的な復活の書。
それぞれの作品は、奥さん(B)、母、父に捧げられている。
最後の4巻目は吉田さん自身に捧げられるのではと予測され、個人史と批評が渾然一体となった内容には、明らかに遺著としての意識が随所に窺われて、凄みさえある。
以上、今年も多くの素晴らしい出会いがありました。
2010年も大いに期待しています。
最後に今年一年拙ブログをお読みいただきました皆様にお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
皆様、良いお年を。
いろいろ啓発していただいてありがとうございました。
いいお年を!