2011年 03月 30日
『羊をめぐる冒険』読了
会社への往復、眠る前、夜中に目覚めた時…
その間、自分が生きているのは、この物語の中であり、現実世界は悪い夢なのではないかと錯覚するほどに、この世界にのめりこんだ。
自分が本の外側にいるのではなく、本の内側にいて、主人公とともに旅をしているような感覚は、久しく忘れていた感覚だった。
恐らく自分自身が今の現実を受け入れられず、心の避難場所を求めていたのかも知れない。
村上春樹の小説はそのほとんどが、「喪失」と「回復」の物語である。
この物語でも主人公は実に多くのものを喪う。
かつての恋人、妻、仕事、新しい(素晴らしい耳を持った)恋人、そして友人。
この物語には(他の彼の物語と同じく)わかりやすい結末はない。
救いも訪れない。
それでも読了して、ある種のカタルシスがあるのは何故だろうか。
それは恐らく主人公が、喪ったものをひとつひとつ丁寧に弔う事によって、喪われたものたちの魂が、その本来の居場所を見つける事が出来るような気がするからかもしれない。
僕が今どうしてもこの小説を再読しなければならないと思ったのは、そのせいだったのだろうか。