2012年 02月 11日
小津安二郎の『浮草』
随分以前にこの映画を観たけれど、異色の映画という記憶はあったけれど、改めて観て、こんなに凄い映画だったのか、と感服した。
いわゆる「小津」調を裏切るような、大映映画らしい華やかさ、宮川一夫のカメラの鋭さが、異化作用とでもいうべき緊張した美をこの映画に与えている。
豪雨の中、中村鴈治郎と京マチ子の道をはさんでの激しい罵倒のやりとりのシーンは、本当に凄い。
そして特筆すべきは、女優の艶めかしさ。
京マチ子のあだっぽい視線の強さ、若尾文子のこぼれるような色香に降参してしまう。
何度も映される、杉村春子の家の庭の花の赤さも妖しいまでに美しく、小津がカラー映画をとても楽しみながら撮影しているのが伝わってくるようだ。
ラストシーンもしみじみと胸に迫る、今観ても全く古さを感じさせない名作でした。
京マチ子も、若尾文子も、その和服や浴衣の着こなしといったらこの上なく、美しいというのはどういうことを言うのかと問うひとが若しいればこの映画のこれらのシーンを見せることで、かならずや納得するのではないかと思うほどです。