2014年 03月 17日
西脇順三郎の『旅人かへらず』
そうして、二三日たった頃に、友人がブログで西脇のことを書いているのを読み、ああ、やはりその詩を読む時期が来ていたのだなあと思い、岩波文庫の『西脇順三郎詩集』を開いた。
やはり、まず『旅人かへらず』からと読み始めたら面白くて、全部読んでしまった。
今の僕の心に響くのは次のような詩たち。
二九
蒼白なるもの
セザンヌの林檎
蛇の腹
永劫の時間
捨てられた楽園に残る
かけた皿
一六〇
草の色
茎のまがり
岩のくづれ
かけた茶碗
心の割れ目に
つもる土のまどろみ
秋の日の悲しき
一六八
永劫の根に触れ
心に鶉の鳴く
野ばらの乱れ咲く野末
砧の音する村
樵路の横切る里
白壁のくずるる町を過ぎ
路傍の寺に立寄り
曼荼羅の織物を拝み
枯れ枝の山のくずれを越え
水茎の長く映る渡しをわたり
草の実のさがる藪を通り
幻影の人は去る
永劫の旅人は帰らず
繊細にして、しなやかな。