2014年 03月 31日
永劫の時、桜咲くこと
勤務先に咲く桜が満開になった。
早くも風に舞う桜を夢うつつの中で眺めながら、この景色に似合う音楽は何だろうとぼんやり考えて、やはりバッハ、それも無伴奏チェロ組曲の一番の冒頭を思い出した。
ゆっくり深呼吸をして、弓をおもむろに弦に置き、最初の音を出す。
ゴンドラに揺られるような、最初の七音が始まり、その旋律が緩やかに繰り返される。
この音楽を聴くと僕は何時も、麗らかな春の朝、両岸に満開の桜の花が咲く水郷を、一艘の舟が音もなく静かに流れていく姿を思い出す。
その舟にはミレーの描いたオフェーリアに似た少女が、まるで眠っているような姿で横たわり、そこに桜の花弁が一ニ片降りかかる。
バッハの音楽は、いつの間にかやみ、舟の姿も消えて、時間の流れさえ消えたように、ただ桜を映す水郷がゆるやかに漂うばかり。
永劫の時間という言葉にバッハの音楽ほど似合うものはない。
そういう心境なのであります。