2016年 07月 11日
モーツァルト、旋律の悦び
ロジェ先生は、パリ音楽院でピアノ、作曲、伴奏、オルガンと即興など各部門を一等賞で卒業し、1933年には栄えあるローマ賞を受賞。
惜しくも1992年に亡くなられたが、日本の音楽・教育界に与えた影響ははかりしれない人とのこと。
先生は「日本の小さい子供たちが弾くモーツァルトを、どんな風にお感じになりますか?」という青柳さんの質問に、次のように答えている。
「日本にオペラ座がないのが、とても残念です。モーツァルトのピアノ曲は、まず何よりも彼のオペラのイメージなのです。子供には、ソナタや協奏曲のレコードより、オペラを沢山聴かせたいですね。ソプラノのヴォカリーズ、女声と男声の重唱、オーケストラ、そしてダンス・・・。モーツァルトは、勿論立派なフーガだって書けたのですが、彼はそれよりも、旋律を豊かに装飾する方がずっと好きでした。モーツァルトを弾く上で一番むずかしいのは、音の粒をそろえることではなく、フレージングの曲線をうまく表現することなのですよ」
なるほど。
ここ数日(あまりに残念な政治的現実から逃避するように)モーツァルトの音楽ばかり聴いていて、彼の音楽のもたらす喜悦の感覚や浮遊感に改めて心奪われていたから、先生の発言がストンと胸に落ちた。
モーツァルトの音楽にある旋律の優美な曲線が、理屈抜きに僕の心を晴れ渡った空に遊ばせてくれ、そのことが一抹の哀しみと共に微かな生きる悦びを与えてくれていたのかも知れない。
まだしばらくはモーツァルトを聴く日々が続きそうだ。
なんと素敵な経験でしよう。