2007年 09月 01日
福永武彦『忘却の河』について
夏風邪のせいか体がだるく、今日は部屋の掃除を終えてから終日家で、復刊された新潮文庫の福永武彦『忘却の河』を読む。
学生時代に福永武彦の小説に凝った時期があり、その頃この『忘却の河』も読んだはずなのにすっかり内容を忘れていました。
これは今の季節と少しだるい今の体調にとてもふさわしい小説で、冒頭からその世界に引き込まれ今日一日で読了してしまいました。
この小説のテーマを解説の中で篠田一士はこのように書いています。
「心の中を流れる河は、いわば、その人間がこの世に生を享け、今日まで生きてきた証に外ならず、生が長ければ長いほど、その河はけがれ、水はそれだけ淀んでいる。その穢れを祓い、おのが魂を救うために、むかしのひとはさまざまな行事や儀式をとりおこなってきた。それならば、現代のわれわれはいかなる祓祭をすればいいのか。この設問に真正面に答えようとしたのが、『忘却の河』の中心主題である。」この文章はこの小説の根幹をとても良く要約している言葉で、作者の「魂の救済」のための真摯な試みがこの小説をとてもストイックで美しいものにしていて、一読巻を置く暇を与えず、本当に息を詰めるようにして最後まで一気に読了してしまいました。
罪と救済という重たいテーマを扱い、決して愉快な話しではないのに、引き込まれるのは、その語り口と磨きこまれた文章の妙であり、ラストのカタルシスには本当に光が差し込んでくるのが見えるような気がします。
福永武彦の実子である池澤夏樹さんの巻末のエッセイもとても読み応えのあるもの。
久しぶりに「小説を読む時間」に深い喜びを感じることが出来ました。
忘却の河 改版 (新潮文庫 ふ 4-2)
福永 武彦 / / 新潮社
ISBN : 4101115028
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