新・クラシック音楽と本さえあれば

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2013年 01月 30日

吉田秀和がベートーヴェンを語ると

最近凝っているベートーヴェンのビアノ・ソナタ、特に後期の5曲については、あまりにそのもたらす感動が大きすぎて、言葉にしようとすると「筆舌に尽くしがたい」という表現に逃げ込むしかなくなってしまい、自分の語彙の乏しさに忸怩たる思いになる。

そんな時、吉田秀和さんはこんな時にどう書いているだろう、と『私の好きな曲』を書棚から探しだした。

吉田さんは、あの長大なハンマークラヴーア・ソナタのアダージョ楽章についてこんな風に書いている。

「深い出口のないような憂鬱のまっただなかで、突然、頭の上のおおいがはずされて、そこから一条の光が、慰めの光明がさしこんできたような、そうして、それによって、何か新しいものに目が覚め、しかも、その覚めたことが、そのまま新しい陶酔につながり、一段深い眠りを意味するほかならないとでもいったことの新しい体験。」

まさに、ベートーヴェンの後期のビアノ・ソナタのアダージョ楽章を聴くとは、そうした体験をすることであり、この言葉に付け加える言葉を、今の僕は持たない。
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by maru33340 | 2013-01-30 07:04 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)
2013年 01月 28日

5人のベートーヴェン

最近、ベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタに凝っている。

特に31番作品110「変イ長調」の最終楽章(有名な「嘆きの歌(Klagender Gezang)」のフレーズが出てくる)の美しさに魅せられて、いくつかの演奏を聴き比べながら、「やはり演奏の聴き比べは、クラシック音楽の楽しみの中のとても大きい要素だなあ」と改めて実感する。
(もちろん作品自体が素晴らしいことが絶対条件であることは言うまでもないけれど)

聴き比べているのは、次の5人。(カッコの中は31番終楽章の演奏時間)

■ケンプ(9:43)
■ポリーニ(9:33)
■バックハウス(8:51)
■グールド(10:47)
■リヒテル(1971年ライブ)(11:24)

いずれ劣らぬ名演奏。
それぞれの印象を簡単に記載すると・・・

■ケンプ
この曲の美しさを改めて教えてくれた演奏。
演奏時間だけ比べると、決して遅いわけではないので、一番ゆっくり感じるのは、一音一音を、大切な人に宝物を手渡す時のように、とても丁寧に弾いているという印象から来るのだろう。
とても好きな演奏です。

■ポリーニ
強いタッチでも音が濁らず、まるで透明度の高い湖を見つめているような気持になる演奏。
この曲の声楽的な抒情性を一番表現しているようで、聴いていると独逸語の歌詞を付けて歌いたくなってくる。

■バックハウス
大家というイメージを裏切られる、予想外に早い演奏。演奏時間も一番短い。
ゆっくり弾いているというより、一音一音の間にあまり間を置かないので、最初はそっけなく感じる。
(ノイエザッハリヒカイトの典型かな。)
聴きこんでいくと、最初は愛想の悪いおじさんの心の奥に潜む優しさや哀しみに気づくという感じの演奏。

■グールド
グールドだからさぞいろいろな仕掛けがあるのでは、と構えていると意外や意外、ストレートに「私はベートーヴェンを好きだ!」というグールドの心情がストレートに伝わってくる。
とはいえ、早いパッセージはより早く、遅い部分はより遅くというグールドスタイルは健在なので、面白いのは間違いなく、「嘆きの歌」の美しさも沁みる。

■リヒテル
ライブ演奏であり、異常なまでの集中力の強さに、聴いていて息を飲むほど。演奏時間も長いけれど、時間さえ忘れて聴き入ってしまう。
もう、「凄い演奏を聴いてしまった・・・」と一人蒼ざめるしかない演奏だ。

これだけ多様な演奏を生むとは、やっぱりベートーヴェンは奥が深いなあ。
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by maru33340 | 2013-01-28 10:13 | クラシック音楽 | Trackback(2) | Comments(6)
2013年 01月 24日

柔らかい雨の降る穏やかな朝、僕はゴルトベルクを聴く

片岡義男の小説のようなタイトルをつけてしまったけれど、今、ケンプのゴルトベルク変奏曲を聴きながら思いついた。

この演奏は本当に柔らかく魅力的。

まず、最初のアリアに装飾音がないのに驚いてしまう。

思わず音が飛んだのでは、とあわててCD を止めたけど、それはLP世代のおじさんの早とちり。

ケンプは、この演奏でアリアを装飾音なしで弾いていて、これが実に素朴な、素焼きの陶器のような良い味わい。

手の跡が表面に残り、少しざらっとした質感を残しながらも、唇にあてるとすうっとなじむ老名人の焼いた器のようにさりげない。

テンポは緩やかで、水のように姿を変えて、気がつけばいつの間にか、日射しは傾き始め、今が第何変奏かわからなくなってくる。

全く独創的な、ケンプでしか到達出来ない境地がここにある。
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by maru33340 | 2013-01-24 22:27 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)
2013年 01月 21日

天才少年みうらじゅんと円空

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今月号の雑誌『美術手帖』の特集は「円空」。

力の入った実に良い特集だけれど、なかでもとりわけ驚いたのは、みうらじゅんが小学生時代に、作成した「仏像スクラップ」の中の円空の記述。

その冒頭にまず、
「円空は なにを仏に ささげたか
ひとつひとつの仏たち」
という短歌が書かれ、本文にも、円空の何に自分がひきつけられているのかという自身への問いかけが書かれている。

その雑にさえ見える造形に何故仏の魂まで感じられるのかという戸惑い、そして彼が見た「円空展」の会場が、デパートの催事場であったことについて、「ぼくは(円空仏を)、こんな藤井大丸なんかにおくからちょっと、気分がくづれる。」と最後に追記するセンス。

みうらじゅんは、小学生時代にして、既にみうらじゅんだったのだなあ。
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by maru33340 | 2013-01-21 08:40 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)
2013年 01月 18日

ケンプの平均律とともに

この年末年始、東北への旅を皮切りに、年明けからは、東京、掛川、京都、そして昨日はまた東京と、文字通り東奔西走の日々。

新しい展覧会の準備や、例年にない寒さの中、苦手な新幹線での移動も続き、これは近々倒れても不思議じゃないな、という予感通り、昨夜から頭痛と喉の痛みに襲われ、寒気もする。

今日は会社を早退して医者に行った所、やはり風邪のウィルスにやられていた。

早々にベッドに横になり、完全防寒体制で、久し振りにゆっくり本を読んだり、音楽を聴いたり、眠ったりして過ごしていると、身体の細胞が徐々に復活してくるのを感じる。

先程からケンプによるバッハの平均律を聴いているけれど、この大言壮語することのない、淡々とした味わい深い演奏を聴いていると、至福の時間とはまさに今の時間であるとしみじみと感じ、ゆるゆると心身がほぐれてくるようだ。
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by maru33340 | 2013-01-18 21:13 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)
2013年 01月 15日

京都で再び大学生になること

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1月6日に自宅から掛川に戻り、すぐに明日から始まる展覧会の準備に入ったので毎日バタバタしてしまい、しばらくブログの更新が出来ませんでした。

さて、昨年10月に資料館・アートハウスに赴任し、やはり展覧会の企画・運営のためには、美術についての専門的な知識が必要と痛感する日々。

そこで一念発起し、京都造型芸術大学の通信課程で学芸員資格を取得することにしました。

昨日は学校説明会のために京都に行き体験授業も受講してきました。

京都は僕が生まれた土地。

また、京都造形芸術大学の近くには、父の母校もあります。

そんな京都の土地で4月から再び大学生になるのは、少し感慨があります。

基本は通信教育ですが、年間何日かはスクーリングで京都のキャンパスにも通います。

年齢相応の、新しい京都の魅力も発見出来そうな予感もします。
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by maru33340 | 2013-01-15 06:28 | 美術 | Trackback | Comments(9)
2013年 01月 07日

『八重の桜』とマックス・ウエーバー

昨夜から始まった大河ドラマ『八重の桜』は良かった。

カメラ、テーマ、脚本、役者・・・全てがピタリとはまっており、『龍馬伝』以来の名作の誕生の予感を感じた。

幕末という時代を描いたドラマは無数にあるけれど、佐久間象山、吉田松陰らの交流を描いて、こんなに身が震えるほどの共感を感じたのは久しぶりだ。

さて、このドラマの重要なテーマである。会津藩の「什の掟」の最後の言葉「ならぬことはならぬものです」を聞きながら、ふいにマックス・ウエーバーが「責任倫理」について書いた言葉を思い出した。

「結果に対するこの責任を痛切に感じ、責任倫理に従って行動する、成熟した人間ー老若を問わないーがある地点まで来て、『私としてはこうするよりほかない。私はここに踏みとどまる』(ルターの言葉)と言うなら、測り知れない感動を受ける。
これは人間的で純粋で魂を動かす情景である。」
(『職業としての政治』より)

ペシミズムの中にありながらそれに耐える個人、時代がそうした人間像を再び求めているのではないか、そんな予感を感じながら、ドラマの1回目を見終えた。

今後の展開に期待です。
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by maru33340 | 2013-01-07 06:28 | TV | Trackback | Comments(4)
2013年 01月 03日

2013年の聴き初めはオークレールのバイオリンで

あけましておめでとうございます。

2013年のクラシック音楽の聴き初めは、元旦ににタワーレコードで購入した「ミシェル・オークレールの芸術」で始まりました。

1924年フランスに生まれジャック・ティボーに愛された彼女の演奏を初めて聴いたけれど、この人のバイオリンは本当に素晴らしい。

左手の故障のため1960年代には現役を退き、パリ音楽院で後進の指導のあたった彼女の録音は多くはないけれど、一部の熱狂的なファンに支持され続けているという。

このCには、モーツァルト、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、ブラームスのバイオリン協奏曲が収録されているけれど、どの演奏も、ため息が出るほど魅力的だ。

メロディーの歌い方の流麗なこと、音の響きの豊かさ、粋なポルタメント、思いっきりの良い鮮やかな節回し、どれをとっても音楽を演奏する喜悦に満ちている。

新しい年の初めを寿ぐのにこれほどふさわしい音楽はそうありません。

素敵な年の初めに乾杯を!
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by maru33340 | 2013-01-03 09:25 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)