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2014年 11月 27日

こわがらない

今日は半日本棚の片付け。

探していた茨木のり子の詩集が見つかったので、夕食後眺めていたら「こわがらない」という詩に出会った。
その詩の冒頭はこんな言葉で始まる。


一芸にたけた人は
物をこわがらない
老練の仕立屋は
おそれげもなく高価な布をザキザキ切る
突き抜けた画家は
純白の画布の前でたじろがない
鼻息まじりの落書きにみえる
すぐれた外科医のメスは
静かにすばやく暗がりのお医者さんごっこのように何気ない
フルートの名人の
無造作な第一音 霞くうほどの
魅力的な俳優は
空間をこわがらない むしろ空間が俳優に吸いこまれ
一点の火となって燃える
おそるべき慎重さは消されたように見えず
大胆不敵さばかりが
さっと波立ってみえるのだ


ちょうどセルゲイ・ハチャトリアンのバッハのシャコンヌを聴いていて、最初の一音がいかにもさりげなく始まるのを聴いていた所だったので、「ああ、なるほど」と合点がいったのだ。
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by maru33340 | 2014-11-27 20:03 | 未分類 | Trackback | Comments(4)
2014年 11月 27日

寒い朝に

外に出ると地面は一面霜に覆われている。

ふと見ると、何か穴のようなものがありそこから小さな泣き声がしている。

近づいてみると、霜をまとい凍えた仔猫が穴の奥にうずくまっていた。

そっと抱き上げて、部屋に持ち帰り暖かいシャワーを浴びさせなくては、ミルクはあったかな、などと考えている途中で目が覚めた。

気がつくと、夜寝るまえにはつけていたネックウォーマーを外していたらしく、首筋が寒く少し喉も痛い。
だからこんな夢を見たのかも知れない。
(僕は友人と違って滅多に夢を見ないのだが)

今月は出張と行事が続き、二週間程休めなかったので、今日はその代休。

もう少し蒲団に潜り込み、バッハのフルートソナタを聴きながら、永田和宏著の岩波新書『現代秀歌』を読みゆっくり過ごそう。
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by maru33340 | 2014-11-27 08:49 | 未分類 | Trackback | Comments(4)
2014年 11月 23日

絵を読むという楽しみ

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松本竣介の絵画にひかれて夢の中でもその絵画のことが頭に浮かび、休日の朝その画集を眺めている。

冒頭には堀江敏幸のエッセイがあり、松本の作品「白い建物」について、このように書いてある。

「水道橋の駅舎を描いたと思われるこの絵は、ほぼまっすぐな直線だけで構成されている。空の青みは、中央を左右に横切る高架線のホームの上、画面の四分の一ほどにすぎず、残りを占めているのは、建物の壁だ。白、灰色、茶色、黒、灰緑色。粗削りのようでいてそうではなく、面で捉えられているようで、そのじつ線のリズムがすべてを支えている。青はいたるところに沁みだして白を上書きし、灰に溶け込み、さらにまた藍鼠や桝花に変化する。鉄骨のいかにも重そうな建造物なのに、海に浮かぶ空っぽの貨物船を思わせる相対的な軽みがあり、人の気配を消しつつ負の印象を与えない。(中略)
画布ではない板の堅さと、透明な絵具を溶いて薄め、乾いている絵具の上に薄く塗って膜をつくるグラッシの技法が硬質な輝きをもたらしている反面、青を水槽のガラスにうっすらと張り付いた苔のように、鈍く、半透明にひろげていく。画家はこの膜に身を包んで画面のなかに姿を消し、耳を澄ますという行為さえ許されない静寂に身を潜めている。ここには、ある種の若さにしかない繊細さと脆さが、そして若さだけでは持ち得ない時間と沈黙の積み重ねがある。」

堀江敏幸らしい息の長い文書を読みながらその絵を眺めていると、絵を読むということの楽しみを思いだし、こんな風に一枚の絵を見るのは随分久しぶりで、まさに絵と対話しているような気持ちになってくる。

贅沢な時間とはこのような時間を呼ぶのかも知れない。
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by maru33340 | 2014-11-23 08:28 | 未分類 | Trackback | Comments(4)
2014年 11月 19日

松本竣介、舟越保武、そして盛岡

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今週月曜から盛岡に来ている。

昨年一度仕事で現代画家の百瀬寿さんのアトリエを訪れ、今回が二度目の訪問だけれど、この街のたたずまいがとても好きになった。

宮沢賢治、石川啄木、そして松本竣介や舟越保武...

僕の好きな作家や画家ゆかりのこの土地には、静かで雪国らしい寂しさが微かに漂いながら、それでいて深く豊穣な味わいに満ちている。

食事帰りに本屋に立ち寄り松本竣介の画集を求め宿で眺めていると、ルオーやクレーを思わせる彼の線の美しさは、岩手山の稜線の美しさに似ているとふと感じた。

盛岡、またいつか再訪したい街になりました。
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by maru33340 | 2014-11-19 20:48 | 未分類 | Trackback | Comments(3)
2014年 11月 10日

『フルトヴェングラーの遺言』のこと

僕はフルトヴェングラーの演奏の熱心な聴き手とはいえない。

それでも、ベートーヴェンの第九交響曲の三楽章のどこまでも高みを目指して憧れ行くような崇高さ、「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲での心臓の鼓動が聞こえるようなピチカート、シューマンの交響曲四番の三楽章から終楽章への壮大な自然の峻厳さを思わせる移行部分に、他の演奏者から遥かに隔絶した、やはり「魂の音楽」としか言いようのない感動を覚える。

そのフルトヴェングラーの言葉を集めた『フルトヴェングラーの遺言』(野口剛夫著、春秋社)という本を読んでいて、その音楽のもたらす感動は彼自身の思想が結実しているからなのだと、改めて思った。

共感出来る言葉のページの耳を折っていったら、読み終えて本が分厚くなるほどになったけれど、その中からいくつか。

■人は芸術作品に没頭しなければならない。・・・没頭するとは愛することに他ならない。愛とは品定めや比べたりすることのまさしく対極にある行為であり、比較を絶したかけがえのない本質を見抜く。白日の下にさらして評価しようとする冷たい知性の世界は、比類ない芸術作品の価値をまるで理解できないのだ。

■絶対の価値というものがもはや全く信じられないから、私たちは決して事物の本質に出会うことができない。これこそがまさしく私たちの悲劇にほかならない。

■私にとって重要なのは、それが新しく見えるかどうかではなく、「魂に訴えかける」かどうかである!魂によって、すなわち人間の全体を挙げて理解するものでなければならない。

■もし私たちが昔の芸術、昔の音楽を「これは古い音楽だ」と思って聴いてしまう、つまり私たち自身にとって本当に切実な問題であるという意識を十分に持たないで聴いてしまうならば、それは誤りである。

■自らを欺いて自らの生命を失い、どんなものでも全てを手に入れようとして本来の自己をなくしているのに、彼ら自身がこの暴挙の滑稽さに気づいていない。現実には-今日の状況がどうであろうと-そこにあるのは空の容器だけである。

これらの言葉は一昔前の芸術感かも知れない。
今から三十数年前にフルトヴェングラーの著書を読んだ時には、僕もこれらの言葉を一時代前の考えだなあと思った記憶がある。

しかし、現代音楽に限らず、現代の美術やあらゆる芸術の閉塞状況を思うとき、フルトヴェングラーのこれらの言葉は、普遍的な真実として、深く考えさせられるものを持っているように思う。

芸術が、単なる商売の道具や観念の遊びや日常生活の飾りになってしまっていて、人の生活を根底から揺るがすような力を失っている今、フルトヴェングラーの投げかける言葉の意味をもう一度一人一人が噛み締めるべき時が来ているのかも知れない。

フルトヴェングラーの遺言: 混迷する現代へのメッセージ

野口 剛夫 / 春秋社


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by maru33340 | 2014-11-10 15:43 | お勧めの本 | Trackback(1) | Comments(4)
2014年 11月 04日

自分の耳で聴くこと、自分の頭で考えること

今はスマホで何でも調べられて、未知の演奏者や作家のことを聞くと、まず検索してしまい、wikipedia や他の人のレビューを見てわかったような気になってしまう。

しかし、ふと気がつくと、その分自分の耳で聴くこと、自分の頭で考えることがおろそかになっていると痛感する。

友人が教えてくれたセルゲイ・ハチャトリアンというバイオリニストのバッハ無伴奏を聴く前にもついいつもの習慣で、何となくそのプロフィールや他の人のレビューを読みそうになり、ふと「ああ、これはもうやめなくては」と我に帰った。

初めてその演奏に触れる時のときめきや驚きを言葉で濁らせてはならない、と思った。

そうして朝の静寂の中で、そのバッハを聴いた。

その演奏は、今まで聴いたどんな演奏とも違い、とても親密で乾いた砂に澄んだ水が深く静かに浸透するように僕の心に響いた。

それは、演奏というより静かに語られる祈りに近く、おおらかで優しいものに身も心も包まれるような経験だった。

森有正の語る「経験」という言葉が、今まで何となく遠くにあったけれど、この音楽を聴いていると、「僕は今、音楽を経験している」と感じ、初めて「経験」という言葉を身体で知るような気がしたのだ。
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by maru33340 | 2014-11-04 08:56 | 未分類 | Trackback | Comments(7)