新・クラシック音楽と本さえあれば

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2014年 12月 29日

2014年の本と音楽のマイベストから

今年も恒例のマイベスト選びの季節がやってきました。
まずは本から。

◎『脊梁山脈』(乙川優三郎著)

敗戦後、昭和21年3月から始まるこの物語は骨太で、文体は硬い石を鋭く深く鑿で刻み込むよう。
それはちょうどジャクリーヌ・デュ・プレの弾くエルガーのチェロ協奏曲の最初の一音のように、僕の肺腑を抉る。
こんなに重く深い小説を本当に久しぶりに読んだ。
今年はあまり小説は読まなかったけれど、マイベスト小説になりました。

◎山田太一のエッセイ『月日の残像』

この人の徹底したペシミズムにまいりました。
含羞という今はほとんど忘れられかけている心の有り様に打たれます。
この人の透徹した視線には学ぶ所が数多くあります。

◎西脇順三郎詩集(岩波文庫)

西脇順三郎の詩はおそらく一生読み返すことになると思うけれど、今年もやはり読み返しました。

「旅人かへらず」から

一六八

 永劫の根に触れ
 心に鶉の鳴く
 野ばらの乱れ咲く野末
 砧の音する村
 樵路の横切る里 
 白壁のくずるる町を過ぎ 
 路傍の寺に立寄り
 曼荼羅の織物を拝み
 枯れ枝の山のくずれを越え
 水茎の長く映る渡しをわたり
 草の実のさがる藪を通り
 幻影の人は去る
 永劫の旅人は帰らず

◎『フルトヴェングラーの遺言』(野口剛夫著)

フルトヴェングラーの硬質な言葉は今こそ読まれるべき言葉の宝庫であると改めて知ることができた。
例えばこんなこんな言葉が胸に残っています。

■人は芸術作品に没頭しなければならない。・・・没頭するとは愛することに他ならない。愛とは品定めや比べたりすることのまさしく対極にある行為であり、比較を絶したかけがえのない本質を見抜く。白日の下にさらして評価しようとする冷たい知性の世界は、比類ない芸術作品の価値をまるで理解できないのだ。

■絶対の価値というものがもはや全く信じられないから、私たちは決して事物の本質に出会うことができない。これこそがまさしく私たちの悲劇にほかならない。


◎『無名の人生』(渡辺京二著)

その思想はどこか山田太一の思想に似ている。
末期の眼というような冴え冴えとした視線のせいだろうか。
例えばこんな文章。

「われわれは、みな旅人であり、この地球は旅宿です。われわれはみな、地球に一時滞在することを許された旅人であることにおいて、平等なのです。

 娑婆でいかに栄えようと虚しい。すべてが塵となるのですから。金儲けができなくても、名が世間にゆき渡らなくても、わずか数十年の期間だけこの地上に滞在しながら、この世の光を受けたと思えること。それがその人の「気位」だと思う。(中略)この世の光を浴びるとは、自分を自分としてあらしめている真の世界と響きあうこと。この世界ー地理学的な世界ではなく、自分を取り巻くコスモスとしての世界ーと交感しながら、人間が生きていることの実質を感じること。これが真の世界と響きあうことでしょう。」


次に音楽から。

◎高橋悠治「バルトーク初期ピアノ作品集」

このアルバムのサブタイトル「傷ついた心、さまよう音楽」という言葉がこの音楽を象徴している。

高橋悠治自身の言葉がこのアルバムの内容を端的に表現しています。

「バルトークが、バルトークとなる以前の、傷ついた心と、さまよう音楽に、その後の世紀から失われた可能性、マイノリティーの音楽を聴く。
あえて理解を閉ざす棘に覆われた響き、半音と増音程、密集位置の和音と地下の水脈、屈折したメロディーのなかに見え隠れする去った恋人の肖像、パターンの変形とグロテスクな逸脱。
20世紀音楽の一元性、綜合性、民族音楽の呪縛、権威主義とヒロイックな身振りの後で、次の制度がまだ見えない不安定な時期に、時代に押しやられた流れを振り返り、曲がり角で消えたヴィジョンを呼び戻す。」

◎フェリシア・ブルメンタール(p)レオポルド・ハーガー指揮ザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団
モーツァルトピアノ協奏曲23番&9番

神保町のササキレコードで偶然このCDのジャケットに描かれた藤田嗣治の描いた肖像画に出会い衝動買いした。
内容はまさに隠れ名盤と言うにふさわしい素晴らしいもの。
こういうことがあるから中古レコード店巡りはやめられません。


◎ペーター・レーゼルの室内楽選集

シューベルト、ブラームス、シューマン・・・聴きなれた音楽が東欧の演奏家の手にかかると、いぶし銀の衣をまとった大人の音楽に変わる・・・
折に触れて愛聴しています。

◎ピエール=ロラン・エマールのバッハ平均律(第1集)

現代音楽の切れ味鋭演奏のイメージがあるエマールがここではとてもロマンティックなバッハを聴かせてくれます。

最初に聴いたときは驚いたけれど、実に美しい名盤です。

僕は、こんな風に書いています。

演奏は自然な呼吸と歌心に満ちていて(グールドのように本当には歌わないけれど)安心してバッハの大きな宇宙に身をゆだねていることが出来る。
それは、例えば、満天の星が瞬く夜の海に浮かびながら空を眺めているかのような、悠久の時間に遊ぶ心地がする。
どの音も耳障りな音がなく、静かでしっとりと落ち着いていて思索的。

◎アンジェラ・ヒューイットの「フーガの技法」

数あるバッハの音楽でも最も峻厳で近づきにくいこの音楽もアンジェラ・ヒューイットの演奏では、いい意味でとても親しみやすい音楽になる。

今年の「レコード芸術」でも賞を得ました。

今年は、素晴らしい生演奏にも触れられたのも嬉しかったなあ。
こんな風に書いています。

◎マタイ受難曲(鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン)

古楽器によるきびきびとした演奏は清潔ですっきりと見晴らしの良いものでありながら、深いため息のような寂寥感と激しい怒りの感情、限りない哀惜の情にも満ちて美しく、歌い手も極めて上質で、ソロ楽器のパートも外連味なく、これ以上何も望むものはないほど。

◎シュテファン・ヴラダー(指揮、ピアノ)、ウィーン・カンマー・オーケストラによるモーツァルトのディヴェルティメントK.136、ピアノ協奏曲20番、交響曲41番《ジュピター》

最初のディヴェルティメントが始まった瞬間に、ただごとならぬ素晴らしい演奏が始まったと驚く。
その演奏は、生気に満ち、しなやかで歌心に溢れ、今、目の前で音楽が泡立つように生まれている瞬間に立ち会っている悦びに満たされる。

展覧会は仕事絡みで数多く見ましたが、世田谷文学館で開催された 「星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおか しな展覧会」は、虚構の持つ力を改めて認識することができた素晴らしい展覧会でした。

さて、今年も残り1日となりました。

では、皆さま良いお年を。

来年もよろしくお願いいたします。
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by maru33340 | 2014-12-29 07:35 | お勧めの本 | Trackback | Comments(6)
2014年 12月 28日

年末に聴くオークレール

メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴くことはめったにないけれど、オークレールによる演奏だけは別。

時折ふいにこの人の演奏を聴きたくなる。

甘いポルタメントは一時代前のロマンティックな演奏だけれど、とても心地よい時間を与えてくれる。

静かな年末の夜にこれほどふさわしいヴァイオリンはあまりない。

今年もあと3日。

そろそろ今年の音楽と本を振り返る時期が近づいてきた。
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by maru33340 | 2014-12-28 22:27 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(4)
2014年 12月 22日

西行の語る「虚空」のことなど

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会社で必要があり、昭和52年に出版された画家山本丘人の画集を見ていたら、その解説に西行が明恵上人に語った言葉が引用されており、心に残った。

山本丘人の絵は一筋縄には語れない所のあるとても不思議な絵で、見れば見るほど謎が深まるのだけれど、この言葉(決してわかりやすくはないが)を読むと少しその謎を解く入口に立ったような気がする。

「我が歌を読むは遥かに尋常に異なり。花、ほととぎす、月、雪、すべて万物の興に向ひても、およそあらゆる相これ虚妄なること、眼に遮り、耳に満てり。また読み出すところの言句は皆これ真言にあらずや。花を読むとも実に花と思ふことなく、月を詠ずれども実に月とも思はず。ただこの如くして、縁に従ひ、興に従ひ、読みおくところなり。紅虹たなびけば虚空色どれるに似たり。白日かがやけば虚空明かなるに似たり。しかれども、虚空はもと明かなるものにあらず。また色どれるにもあらず、我またこの虚空の如くなる心の上において、種々の風情を色どるといへども更に蹤跡なし。この歌即ち是れ如来の真の形体なり。」

僕にはまだ西行の語るこの言葉の真に意味する所はわからない。

しかし、この言葉は僕の探していた真理を語っていると直感的に感じるのだ。

(作品は、山本丘人の「地上風韻」1975年)
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by maru33340 | 2014-12-22 19:44 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)
2014年 12月 20日

寒い休日の朝のラモー

この所の寒さで、朝なかなか布団から出られない。

あと10分、あと5分と起きるのをためらいながら布団にいることには甘美な怠惰の喜びがある。

しかし、休日の朝は何故か早く目が覚めてしまう。

今朝も朝方夢を見て、そのまま目が覚めたので、アンジェラ・ヒューイットの弾くラモーの組曲を聴きはじめた。

次第に明けていく空を眺めながら聴くラモーの音楽は、清潔で微かな愁いをおびて、静かに心に染み入る。

その音楽は、まるで淡雪のようにはかなく天から舞い降りて、地面に届くと消えてしまう。

バッハより優しく、モーツァルトより控えめなラモーの音楽は、冬の休日の朝によく似合う。
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by maru33340 | 2014-12-20 06:43 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)
2014年 12月 18日

寒い年の暮れ、モーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスを聴く

日本列島は急激な寒波に襲われ、僕が住まう暖かいはずの静岡も日中でも2℃という寒さ。

部屋はなかなか暖まらないので、布団に潜り込みモーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスを聴く。

モーツァルトの短い生涯の最後の年に書かれたこの曲は、短いながら天から舞い降りる贈り物のように至福の時間を与えてくれ、ひととき寒さを忘れさせてくれる。

今年はバッハをひときわたくさん聴いた年だったけれど、時折聴くモーツァルトにも随分お世話になった。

この30年あまりクラシック音楽を聴いてきたけれど、バッハ、モーツァルト、ベートーベンという基本中の基本に年々帰っていくようだ。
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by maru33340 | 2014-12-18 23:06 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)
2014年 12月 15日

耳を澄ますこと

暮れの選挙が終わった。

その結果は予想された通りだったけれど、声張り上げれば上げるほど、宴の後の虚しさがつのるのもいつもの選挙の風景。

ふと、茨木のり子の「聴く力」という詩を思い出す。

「聴く力」

ひとのこころの湖水
その深浅に
立ちどまり耳澄ます
ということがない

風の音に驚いたり
鳥の声に惚けたり
ひとり耳そばだてる
そんなしぐさからも遠ざかるばかり

小鳥の会話がわかったせいで
古い樹木の難儀を救い
きれいな娘の病気まで直した民話
『聴耳頭巾』を持っていた うからやから

その末裔は我がことのみに無我夢中
舌ばかりほの赤くくるくると空転し
どう言いくるめようか
どう圧倒してやろうか

だが
どうして言葉たり得よう
他のものを じっと
受けとめる力がなければ
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by maru33340 | 2014-12-15 07:59 | お勧めの本 | Trackback | Comments(5)
2014年 12月 14日

2014年の2つのバッハ

今年最も多く聴いたのはバッハの音楽。

20代の頃は将来こんなにバッハに心ひかれる時がくるとは思いもしなかった。

今年のバッハの演奏では、ピエール・ロラン・エマールの「平均律」とアンジェラ・ヒューイットの「フーガの技法」に深く心動かされた。
(「フーガの技法」は今年のレコードアカデミー賞を授賞したとのこと。めでたし)

休日の午後はそんな二人のバッハを聴きながらゆるゆると過ごした。

エマールの「平均律」は、現代音楽の大家で厳しく知的な演奏のイメージのある彼が、ロマンティックなバッハ演奏を聴かせてくれるのに驚く。
しかし、その柔らかく自然なバッハを聴いていると身体の芯のしこりが少し消えるような気がする。

ヒューイットの「フーガの技法」は、峻厳で近づきがたいイメージのあるこの曲を、彼女特有の美しい音で弾いていて、秩序ある幸せな時間を与えてくれる。

暮れの休日に聴くバッハほど心慰めてくれる音楽はあまりない。
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by maru33340 | 2014-12-14 19:31 | お勧めの本 | Trackback | Comments(5)
2014年 12月 07日

黄昏と時間と

先日書棚を整理していて松浦寿輝のエッセー集『青天有月』(講談社文芸文庫)を発掘したので、読み始めた。

光を巡る15の変奏曲という趣で、ゴダール、ボードレール、吉田健一、西脇順三郎らの言葉を引用しながらの語りはエッセーというより散文詩に近いかも知れない。

例えば黄昏について書かれたこんな文章。

「光はわたしの周りをたゆたい、わたしにじかに触れ、わたしの後ろにゆっくりと過ぎ去ってゆくが、しかしその同じ光はわたしの前にいつまでも滞りつづけ、その間にもすべては徐々に、だが確実に、暗さを増してゆく。」

ここでの「光」を「時間」に置き換えて読めば、そっくり吉田健一の語りになるようだ。

そしてもちろんこの文章の後はヨーロッパの世紀末の話になり、卓抜な吉田健一論も登場する。

冬の弱い陽射しを受けながらゆっくりと読みつづけたいエッセーです。
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by maru33340 | 2014-12-07 10:53 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)