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『それは今読まなければならないテーマだった』

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(10月19日の記事の続き)
村上春樹の最初の短編集『中国行きのスローボート』の文庫本が刊行されたのは奥付けを見ると1986年1月。
安西水丸さんのシンプルで美しいイラストの表紙が印象的だ。

『風の歌を聴け』を読み村上春樹の小説が好きになったことと表紙の爽やかな色彩のイメージから、僕の中でこの短編集は爽やかな夏の午後庭に水撒きをした後、椅子に座りビールを飲んでいる時のような心地好い気分の短編集だったとずっと思い込んでいた。

ところが加藤典洋さんの『村上春樹の短編を英語で読む』を読み、そんな僕のイメージは全く覆されてしまった。

この短編集に収められた最初の3つの作品(「中国行きのスローボート」「貧乏な叔母さんの話」「ニューヨーク炭鉱の悲劇」)のテーマは、加藤さんの解説によれば、それぞれ「日本人の中国に対する良心の呵責」「日本における貧困層への気がかり」「学生運動における内ゲバでの死者への思い」といった(小説で扱うには無謀と言えるほどの)極めて社会的なテーマを扱っているというのだ。

結論だけ聞けば「それはいくらなんでも深読みに過ぎないか」と思うけれど、加藤さんの粘り強い語り口を読むと次第に納得させられてしまう。

そして、雨の降る休日、改めてこれら3つの短編を読み返し、確かに存在していたその秘められた(まさに今に通じる)テーマの重さと深さに(一体僕は今まで何を読んでいたのだろう、という気持ちも重なり)いささか呆然としながら、もう一度村上春樹の小説を初期のものから読み直さなくてはと思うのでした。
# by maru33340 | 2019-10-22 16:23 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

映画が見たくてたまらなくなる本

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芝山幹郎さんの新刊『スターは楽し』(文春新書)を入手し、昨夜寝る前に読み始めたら面白くて止まらなくなった。

東西の名優80人を、名人、怪人、巨人、妖人、野人、麗人、才人、奇人の8つに分類し、その生い立ちや演技を短く的確な文章で紹介しながら代表作3本を紹介する。

まずはその的確な演技・人物評が素晴らしいし、紹介している代表作も「あ、あの作品は外しこちらを入れるのか!」という驚きと発見があり、興味がつきない。

例えば僕が好きな往年の名優田宮二郎について芝山さんはこんな風に書く。

「180センチ近い身長。長い手足。目鼻立ちのはっきりした美貌。身振りも派手で、全体に自制の感じが少ない。奔放でバタ臭いといえばその通りかもしれないが、裏を返せば滑りやすい。おっちょこちょいで、本人が格好いいと感じている部分(英語が達者。容姿が華麗)が、実は浮いている」

彼の25歳の時に出演した映画『女の勲章』(1961年)での田宮二郎の演技について芝山さんは「気障で浮薄で狡猾で、よくまあこれで世間を渡れるものだと思わせるほど、世間を泳ぐ田宮の姿は溌剌としている」と書いていて、無性にその映画が見たくてたまらなくなる。

芝山さん推奨の田宮二郎の他の2本は若尾文子と共演した『夫が見た』(1964年)と『宿無し犬』(1964年)。

誰もが田宮二郎といえば思い出す」『白い巨塔』には一言も触れない所に文章の味がある。

映画好きにはたまらない一冊です。



# by maru33340 | 2019-10-22 09:07 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

村上春樹の最初の短編集のこと

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村上春樹の小説を初めて読んだのは1982年の秋のことだった。

風邪で仕事を休んだ僕に独身寮の同期の友人が貸してくれた『風の歌を聴け』を読み、それまで読んだことがなかった爽やかで風通しの良い文章にひかれた。

後にあまりにベストセラーになりすぎてしまった『ノルウェーの森』は、発売してすぐ入手し、電車の中で読み始めその世界に没入するあまりに降りなければならない駅で降りず終点まで乗り過ごして読み続けた。

そして現在に至るまで(少しその世界から遠ざかった時もあったけれど)彼の作品を読み続けてきた。

そんな村上春樹の作品の中で一番好きな作品はと聞かれたら、僕は彼の最初の短編集『中国行きのスローボート』だと答えてきた。

だから最近出た加藤典洋さんの『村上春樹の短編を英語で読む』はすぐに入手し早速初期の短編についての文章を読み始めて驚いてしまった。

何故驚いたのかについては次回の投稿で。
(まだ書きかけ)
# by maru33340 | 2019-10-19 10:56 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

『それは幻想であって欲しいと願う』

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今朝も冷たい雨が降っている。

台風19号の被害の全容はまだ掴めず犠牲者の数が日々増えていくのを知り心痛む毎日が続く。

22日に予定されていた即位のパレードの延期が決まり、まだこの国にも微かな良心はあったのだと少しだけ息をつく。

通勤途中、ふとベルリオーズの《幻想交響曲》が聴きたくなった。
あの幻想と狂乱の交錯する音楽が今のざわつく心を少し鎮めてくれるかも知れないと感じたのだろうか。

ウォークマンに入っている演奏はアンドレ・クリュイタンス指揮フィルハーモニア管弦楽団によるもの。
1958年の録音だけれど状態は良く、今目の前にオーケストラがいるような臨場感がある。

クリュイタンスの音楽は整然としてどこまでも美しい。
しかし、そのスタイルで演奏される《幻想》はまるで白日夢を見ているような気がしてかえって恐ろしいようにも感じるのだ。
# by maru33340 | 2019-10-18 09:01 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

『良い居酒屋を訪ねることは少し旅に似ている』

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ぐっと冷え込んだ昨夜、居酒屋の名店として誉れ高い湯島の「シンスケ」を初めて訪問。

丁寧に作られた肴をつまみにサッポロビール赤星と旨い日本酒を熱燗で2合飲む。
評判に間違いはなかった。

良い居酒屋を訪ねるのは少し旅に似ているなどと思いながら吉田健一のこんな言葉を思い出す。

「寧ろ旅をなすものは夜通り掛つた横丁の石畳が放つ鈍い光とかホテルの窓から観た向う側の建物の屋根とかいふ自分が住み馴れた場所でも珍しいとは限らないものでただそれが旅で正確な働きを取り戻した眼に映って我々の記憶に残ることになる」
(吉田健一『思ひ出すままに』より)

しかし、あっという間に熱燗の旨い季節になりました。
# by maru33340 | 2019-10-16 05:36 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

『冷たい朝のブラームスのバラード』

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今朝洗い物をしていて久しぶりに水が冷たいと感じた。
淹れたての珈琲の温もりを嬉しいと感じるのも久々の感覚。

台風の後、秋を通りすぎて一気に冬が訪れたような朝にふさわしいのはやはりブラームスの音楽。

グレゴリー・ソコロフの弾く《バラード》は、重心の低いずっしりした温もりのある彼のピアノの音質がいかにもブラームスにふさわしく、一音一音が胸の奥に沁みてくるようです。
# by maru33340 | 2019-10-15 08:21 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

ただ悼むことしか…

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台風19号のもたらした水害の傷痕のあまりの酷さに言葉を失う朝。

これだけの被害を前に「まずまずの被害でおさまった」と語るこの国の為政者の言葉を知りまた絶句する。

しかし、では自分に何か出来るのかと自問してそのあまりの無力に愕然とするばかり。

せめて今はデュリュフレの《レクイエム》を聴いて亡くなられた方々を悼むことしか出来ないけれど…
# by maru33340 | 2019-10-14 17:22 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

『台風の夜、セザール・フランクのヴァイオリン・ソナタを』

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昨日から台風のため終日家に引きこもり、フランクのヴァイオリン・ソナタを聴き続けている。

演奏はイザベル・ファウストのヴァイオリン、アレクサンドル・メルニコフのピアノによる2016年の録音。
素晴らしい演奏だ。

この曲は学生時代から好きだったけど、長い間聴かない時期が続き、最近ふとしたきっかけでフランクの弦楽四重奏曲を聴き返してから再びフランク熱が甦ってきてヴァイオリン・ソナタにも手が伸びた。

貴婦人がそっと部屋に入ってくるような冒頭部分に引き込まれ、少し暗い情熱を感じる2楽章に胸を焦がし、瞑想的な3楽章に泣きそうになり、終楽章の透明な色彩に救われる。

フランクの音楽を聴いていると僕はいつもセザンヌの風景画を思い出していたけれど、最近ポール・ゴーギャンがこんなことを書いていると知った。

「セザンヌは、セザール・フランクの弟子である。いつも古風な大オルガンを鳴らしている」

確かにフランクの音楽にはオルガンの響きを感じ、その響きはセザンヌの色彩のサクサクとした重なりにとても良く似ているようだ。

このフランクのヴァイオリン・ソナタのアルバムジャケットにはモーリス・ドニの絵画が使われているけれど、ドニには《セザンヌ礼賛》という代表作がありここでもフランクとセザンヌが繋がっているのが嬉しい。
# by maru33340 | 2019-10-13 10:31 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

『台風の午後に聴く「主題と変奏」』

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関東地方は台風の影響で雨はかなり激しくなってきた。

交通機関はほぼ運転を取り止めほとんどの施設は休館し、近くのスーパーも今日は臨時休業。
必然的に家に引きこもるしかなく朝から音楽を聴いて過ごす。

今朝はアンジェラ・ヒューイットの弾くフォーレの「主題と変奏」を聴き始めた。

僕はフォーレのピアノ曲では「夜想曲」が好きで、時に晩年の内へ内へと沈積していき闇の中で沈黙の華が咲いているような世界が好きだから「主題と変奏」のダイナミックな世界には少し距離を置いてきた。
ところが今回の台風による激しい雨風の下では「主題と変奏」の感情の高ぶりがしっくり来る。

アルフレッド・コルトーはこの曲についてこんな風に語ったそう。
「この作品の音楽的な豊かさ、表現の深さ、器楽的内容の質の高さは、あらゆる時代のピアノ音楽のうち、最も希有で最も高貴な記念碑のひとつであることは、まったく疑う余地がない」

なるほど、と思えてきました。
# by maru33340 | 2019-10-12 12:57 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

『遠い夢の中の響きに』

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今朝はひんやりとした朝になった。

こうした肌寒い空気にはフォーレの音楽が良く似合う。

学生時代、まだ渋谷に「らんぶる」という名曲喫茶があった頃、店内でかかっている音楽がまるで自分の心の中から聴こえてくるような気がして身体が震えるような気がした。

それがフォーレの弦楽四重奏曲だった。

以来、遠い日の夢のように儚く、淡い(時に深い)哀しみに満ちたフォーレの音楽に夢中になり、朝から晩までフォーレを聴き続けたから、音楽を聴いていない時でも頭の中でその音楽が聴こえてくるような気がしていた…

今朝はフォーレのピアノ五重奏曲を聴きながら40年以上前のそんな出会いを思い出していた。

ようやく秋、でしょうか。
# by maru33340 | 2019-10-10 07:45 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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