やはり夏の京都では鱧ということになる。鱧を食べるには、祇園の「川上」に限り、突き出しに続いて梅肉で湯がいた鱧をさっばりと食べる頃には、酒はビイルから冷酒になる。「京の泉」という酒は辛口ながらしっかりした味わいで、すっきりと喉を洗いながら次の料理を待つのに相応しく、白味噌に鯨麩を浮かべた汁はポタージュスウプのようなまったりした触感が、いかにも京の味であり、稚鮎を塩焼きしたものを蓼酸で食べる頃には酔いは大分廻っている。焼き鱧を冷たい素麺に合わせたものを食べると清涼感に満たされ、ものを食べる幸福とはこういう事であったと思いだす。締めの食事はコオンを炊き込んだもので、その意外な相性に驚くので、これだから食べるという事の奥深さには驚かされ、祇園からタクシイに乗った頃には、次はいつ頃来る事が出来るだろうと考える時間は哀しみに似た幸せを感じる。