2010年 10月 10日
切れ味のベートーヴェンか、微笑みのベートーヴェンか
今は中期の作品群であるラズモフスキーのシリーズを聴き始めた。
まずは切れ味鋭いジュリアード弦楽四重奏団の演奏で。
吉田秀和の評を借りるならば、
「ジュリアード四重奏団の演奏には、ベートーヴェンであれモーツァルトであれ、ヴェーベルンの演奏から彼らが修得し、獲得した表現手段上の資格が活用されている。」
すなわち正確で分析的な、透明な蒸溜水のように清潔なベートーヴェン。(アルバン・ベルク四重奏団の演奏は、同じように切れ味鋭いものだけれど、ジュリアードに比べればより弾力があり、時に熱を帯びる。)
対して、バリリ弦楽四重奏団の演奏は、テンポも緩やかで、一つ一つのメロディが微笑んでいるよう。
音色にも何とも言えない温もりがある。
ラズモフスキー1番のアダージョ楽章は、本当に「心がとろけるよう」に美しい。
それぞれ味わいが違い、どれをとるかはもう聴く人の好みだけれど、今の時点で、もし無人島にベートーヴェンの弦楽四重奏全集を1セットだけ持っていけるとすれば、僕はバリリ弦楽四重奏団の演奏を選ぶかな。
秋も深まりそうなのでどうしようかと、僕も今日、CDショップを訪れたが、入り口で、エマーソンSQのベートーヴェンの弦楽四重奏曲集に出くわした。かっこよいオジサンたちやなあと、思いながら、いやいやまだ、この秋に早いじゃろう、と棚に戻し、シフのバッハを買い求めてしまった。
秋は、ブラームスやらベートーヴェンの弦が誘ってくるのだろうが、今日感じたいざないは、やっぱり、ほんまもんだったんやな。