2011年 02月 13日
『叫び声』(大江健三郎著、講談社文芸文庫)
その時、僕には大江の描く小説の中の虚構の方がリアリティがあり、現実の方があまりにペラペラの書き割りのようで、心の持って行き処がないような気持ちになったのだ。
今、また彼の『叫び声』という小説を読み始めて、冒頭の文章に既に圧倒されている。
「ひとつの恐怖の時代を生きたフランスの哲学者の回想によれば、人間みなが遅すぎる救助をまちこがれている恐怖の時代には、誰かひとり遥かな救いを求めて叫び声をあげる時、それを聞く者はみな、その叫びが自分自身の声でなかったかと、わが耳を疑うということだ。」
なんと決然としてパセティックな美しい文章だろうか。
このようなひとが書いたものを、ちゃんと読める状態になりたい。でも・・・。言い訳をいっている時間はほんとはないのですけども・・・。