2012年 01月 22日
由紀さおり「1969」と「下山の思想」
昨日BS プレミアムで、そのアルバムから何曲かを、本人の歌で聴いたけれど、ペギー・リーの曲を語り付きで歌う彼女の歌唱に感じ入り、やはり由紀さおりは天才であると確信した。
その何処にも無理な力が入っていない伸びやかで余裕のある、それでいて少しだけアンニュイな歌声は、聴いていて何とも心地よい。
そこには失われた時への微かな哀惜とノスタルジーがあり、大きな何かに包まれる安心感がある。
その歌を聴きながら、僕は最近五木寛之さんが語っている「下山の思想」のことを思い出していた。
山を登っている時には周りの景色はあまり見えないけれど、ゆっくりと山を降りる時には、周囲の景色が美しく映る。
日本も経済的にある円熟期を迎え、今ゆっくりと停滞から下降期に移行している。
これからは少し周りや過去を振り返り余裕を持った生き方へ移行していく考え方、すなわち「下山の思想」が必要な時代になるのではないか…
由紀さおりの歌声が世界中で求められているのは、そんな時代の空気があるからなのかも知れない。
そして彼女は本当に相当な才能の持ち主で強運な方ですねー。
あの時代に何を置き忘れてきたのか…それを探す旅を始めなくてはいけない時が来たようです。
三島のあの事件が起きた時、これらの歌が歌われていたことを思うと、バラバラに見えたパズルがカチリとハマるような気がするのです。これらの歌は、甘くやるせなく、しかし何処か虚無の美を漂わているように聴こえます。