2013年 05月 18日
白洲正子の生の楽しみ方
いずれも平易に書かれた文章の中に、白洲正子の考え方や生き方を凝縮した文章で、白洲正子への入門・再入門の書として最適と感じた。
その中の次のような文章が今の僕には沁みた。
戦争で日本が何もかも失った時代に、私はじっとしていられなくて、無性に「人間」に会いたくて、無性に「美しいもの」に触れたくて、駆けずり回りました。
そして、多くの美に触れ、多くの師や友を得ました。雪国越後の瞽女さんであったり、大島で土と藍とに生きる染織作家や、夢の中に絵筆で描けない美しい色を見続けた晩年の梅原龍三郎さんなどに出会いました。
その人たちが私に教えてくれたのは、今思い返すと、命の限り今日を生き、今を楽しむということでした。「今」というときは再び帰ってこない。そう考えると、大切にしなければいけないし、そのときどきの出会いをいとおしみながら、一回だけの人生を幸せに生きなければいけない。それが人間としてのつとめであり、責任である。こんなことはわかりきったことでしょうが、私なんか年をとるまで、本当に理解できなかった。
「命の限り今日を生き、生を楽しむ」ことを「つとめと責任」ととらえる白洲正子の透徹したまなざしには、安易な楽天性はなく、どこか古武士が死を覚悟しながら日々を精一杯生きる姿を感じるのだ。