2014年 11月 23日
絵を読むという楽しみ
松本竣介の絵画にひかれて夢の中でもその絵画のことが頭に浮かび、休日の朝その画集を眺めている。
冒頭には堀江敏幸のエッセイがあり、松本の作品「白い建物」について、このように書いてある。
「水道橋の駅舎を描いたと思われるこの絵は、ほぼまっすぐな直線だけで構成されている。空の青みは、中央を左右に横切る高架線のホームの上、画面の四分の一ほどにすぎず、残りを占めているのは、建物の壁だ。白、灰色、茶色、黒、灰緑色。粗削りのようでいてそうではなく、面で捉えられているようで、そのじつ線のリズムがすべてを支えている。青はいたるところに沁みだして白を上書きし、灰に溶け込み、さらにまた藍鼠や桝花に変化する。鉄骨のいかにも重そうな建造物なのに、海に浮かぶ空っぽの貨物船を思わせる相対的な軽みがあり、人の気配を消しつつ負の印象を与えない。(中略)
画布ではない板の堅さと、透明な絵具を溶いて薄め、乾いている絵具の上に薄く塗って膜をつくるグラッシの技法が硬質な輝きをもたらしている反面、青を水槽のガラスにうっすらと張り付いた苔のように、鈍く、半透明にひろげていく。画家はこの膜に身を包んで画面のなかに姿を消し、耳を澄ますという行為さえ許されない静寂に身を潜めている。ここには、ある種の若さにしかない繊細さと脆さが、そして若さだけでは持ち得ない時間と沈黙の積み重ねがある。」
堀江敏幸らしい息の長い文書を読みながらその絵を眺めていると、絵を読むということの楽しみを思いだし、こんな風に一枚の絵を見るのは随分久しぶりで、まさに絵と対話しているような気持ちになってくる。
贅沢な時間とはこのような時間を呼ぶのかも知れない。
松本竣介は確か耳の障害を持たれている方のようでしたがそのハンディを絵の中に静寂の美として表現されていることに才能の素晴らしさを感じます。
図書館でまた画集を探索してきます(^・^)