2015年 02月 15日
情熱とため息と セルゲイ・ハチャトリアンによるブラームス・ヴァイオリンソナタのこと
ピアノは姉のリシーネ・ハチャトリアン。
これは素晴らしいブラームスだ。
僕が今まで一番好きなブラームスのヴァイオリン・ソナタの演奏は、オーギュスタン・デュメイ(ピアノはジョアン・ピリス、最近はピレシュと表記するとのこと)によるもの。
ギュメイの演奏は、プチチナのように輝く美音が天を駆け抜け回るように舞い、およそブラームスを形容する時に使う「いぶし銀」とは遠い、華やかでロマンティックな世界が繰り広げられる。
その意味では、ブラームスらしくない異色の名演と言えるかも知れない。
ハチャトリアンの演奏は、ゆったりとした呼吸で一つ一つの旋律が丁寧に歌われ、その微かなヴィブラートの効果も相まって、聴いているとブラームスの心模様まで透けて見えてくるような気がする。
その演奏は緩やかだけど、随所に内省的な情熱を感じ、そこに憂い顔の王子がたたずむような気配を見せる。
そして、王子は時折深いため息をもらし、姉はそっと寄り添う・・・
そんなラファエル前派の絵のような風景を感じさせるブラームスは、休日の夕方、少し傾きかけた冬の弱い陽射しを眺めながら聴くのにふさわしい音楽だ。
そうだねえ。
良い演奏です。