2016年 04月 17日
ただバッハだけが
そしてしばらくしてようやく聴くことが出来るようになった音楽がバッハだった。
特にそれまであまり聴いていなかったバッハの受難曲が、あの震災以降渇いた砂に染み込む清らかな真水のように僕の胸に自然に染み込むようになった。
以来今日にいたるまで最もよく聴くのは「マタイ受難曲」になったけれど、今回の熊本・大分での震災後も、何とか日常生活をこなしながら聴くことが出来るのはその曲だけだ。
最近入手したベーム指揮フリッツ・ヴンダーリッヒ福音史家のマタイは、古いラジオから聴こえてくるようなくぐもったモノラル音でそれは今の気分にふさわしいけれど、やはりもう少し鮮明な音で聴きたくなりグスタフ・レオンハルト指揮によるマタイを聴きはじめた。
リヒターによる峻厳と古楽器による軽やかさの間にあって絶妙な(奇跡的な)バランスを持っているこの演奏は、僕には全てのマタイの基準になっていて、ともすれば沈みがちな気持ちを整えてくれるよう。