朝、したしたという雨音で目覚める。
窓を開けると空気は湿り気を帯び少し肌寒い。
不規則な雨音を聴きながら、この音は何かに似ていると感じ、それが高橋悠治の弾くバルトークの初期ピアノ曲集だと気づいた。
「傷ついた心 さまよう音楽」というサブタイトルがついたこのアルバムには、若きバルトークの個人的な経験と民俗音楽の影響から生まれた(まるで音が生まれやがてそれが音楽に変わる瞬間に立ち会うような)繊細でそれでいて荒々しい曲たちが収められている。
小さな音でこのアルバムを聴いていると、その音楽が雨音と溶け合い、次第に自分が雨の降るハンガリーの深い森をさまよい歩いているような心持ちになってくるようだ。