2018年 09月 08日
藤田の肉声を聞き救われるような思いがしたこと
今日夕方偶然テレビをつけNHKの番組『よみがえる藤田嗣治』を見た。
とても良い番組だった。
何より良かったのは藤田が晩年(亡くなる二年前)テープレコーダーに吹き込んだ肉声を聞けたこと。
フランスに居ながら落語や浪曲のレコードを聞くことを楽しみとしていた藤田は、おそらく事前に丁寧に台本を書いて芝居仕立てでラジオ番組を模して実に楽しげに語っている。
内容は藤田が晩年過ごしたアトリエに死神が訪ねてくる所から始まる。
藤田は「自分にはまだある御堂を完成するという仕事が残っているからもう少し待ってくれないか」と頼む。
死神は彼の希望を聞き入れ「それじゃあ爺さん元気でな」と言って去っていく。
藤田の人生を思うと前半のパリでの華やかな活躍と戦時中戦争画を書いたことで戦後様々な誹謗中傷にさらされ、日本を追われるようにしてパリに渡り、二度と祖国に帰ることなくフランスで亡くなった悲劇の画家というイメージがある。
もちろん藤田の心中には度しがたい怒りと悲しみがあったと思うけれど、残されたテープの中の藤田は、天から自分が与えられた使命をまっとうする悦びに溢れ実に生き生きと楽しげだ。
藤田の肉声を聞きながら「ああ、藤田は決して怒りと悲しみの中で祖国を恨みながら生きていただけではなく、誰より画家としての自分の人生を楽しんでいたのだ」と感じ、救われるような気持ちになった。
藤田はランスの聖堂を完成した一年後その波乱の人生を終えた。
ちなみに明日9月9日朝9時から放送予定の「日曜美術館」でも今日僕が聞いた藤田の肉声を放映予定との事です。
是非彼の晩年の肉声を聞いて下さいな。
御御堂へ行ってみたい。