2018年 11月 11日
亡き友のために
大学生時代、僕も在籍していたクラシック音楽を聴くサークルに、仏文学科に在籍していたS君という同学年の(ただし年齢は彼が少し上)友人がいた。
良く言えば個性的な、相手が先輩だろうがなんだろうが「自分はこう思う。わからない方がバカなんだ!」と出張するような男だったけれど、何故か僕とは気が合い、彼の住むマンションの最上階のオーディオルームで一緒にクラシック音楽を聴いた。
ヘビースモーカーの彼は、フランスの両巻き煙草「ゴロワーズ」を燻らしながら「『ペレアスとメリザンド』はアンゲルブレシュト指揮の演奏を聴かなくちゃ。他の演奏はゴミだよ」とか「デゾミエールの演奏を聴いたかい?あれは凄いよ」等と語る。
当時マーラー熱に浮かされていて、ようやくフォーレの音楽に目覚めフランス音楽を聴き始めたばかりの僕には、彼は同級生ながら、ずっと先を歩く先輩のようだった。
そんな、ほとんど人のことを誉めない彼が何かの文集に載った僕のつたない文章を読んで「君は文章を書いて生きていくべきだ」と呟いたのは今から40年近く前のこと。
大学を卒業してから彼とは一度も会っていなかったけれど、彼と共通の友人から彼が亡くなったとの知らせを受けた。
長く癌と闘っていたそうだ。
僕が今(そしてこれから)彼のために出来ることはなんだろうか…
亡き友人の言葉のひらめきは大切に、活かしていらしてくださいませ。