2019年 08月 02日
片岡義男の小説のように
今朝、日本橋での打ち合わせの前少し時間があったのでMARUZEN日本橋店に立ち寄った。 片岡義男さんの新しい長編小説を見つけ思わず手に取りレジに向かうと、レジの女性から「片岡義男さんもう80歳なんですね」と語りかけられた。
本屋のレジで店員さんから話しかけられる機会はまずないから少し驚いたけれど、とても自然な感じだったので「若い時は片岡義男さんの小説を良く読んだけど、今日久しぶりに手に取りました」と僕は答えた。
「私は若い頃片岡さんの小説の影響を受けてバイクを買いました」とレジの女性は微笑み本を渡してくれた。
「片岡義男の小説を買うと彼の小説の中での出来事のようなことが起きる」と僕は少し面白く思って本屋を出た。
するとそのとき、「あっ、あの、忘れ物です。ハンカチがレジの荷物置きに。」と、女の声がして、高柳の右肘を軽く掴んだ。
あはっ、と声が出そうになったのは、忘れ物についてではなくて、その女性の顎の形形が、過去に好きたった歌手や女優のそれと同じだったからだった。
「えっ、ああ、やだな忘れちまってたか。どうもありがとう。」
顎に見とれながら、高柳そう答えた。と同時に、「あの、良かったらこちらのアートギャラリーにお見えになりませんか?今夕でも、その次でも構いません、僕の担当なので」、と思い付いたことがらがそのまま口にでていた。
『そのときにまた、僕の知っている片岡さんのことをちょっとお伝えしたいんです』
と高柳が言い終わる前に、女性は「ええ、悦んで」と恥ずかしそうに答えると、つつっと、お店に引っ込んでしまった。