2020年 01月 28日
雪の上の足跡
前略
昨夜から今日にかけてぐっと冷え込み各地で雪になったようですね。
そちらの様子はいかがですか。
雪景色を見ると僕はいつもバッハの「フーガの技法」を思い出します。
あのフーガの旋律が、雪の上に点々と残った一人の旅人の足跡のように思えて。
特にピアノで演奏された「フーガの技法」を聴くと一層その思いが強まるようです。
そしてその足跡の印象は演奏者によって異なります。
タチアナ・ニコラーエワの「フーガの技法」では、夜の森を覆う雪の上に残された重たく深い足跡のよう。
とてもしっかりした足跡なのにとても孤独なしかし深い真理をきわめた旅人の姿が思い浮かびます。
ピエール=ロラン・エマールの演奏からは、雪の森の生態を調べるために一人静かに森の奥に分け入る地理学者の残した足跡を思う。
そして今聴いているアンジェラ・ヒューイットの演奏からは、明るい日の光にキラキラ輝く雪の上の軽やかな足跡が見えてくるようです。
三者三様の足跡の美しさがあります。
君の住む街の雪の上にはどんな足跡が残っているのでしょうか。
夜も更けてきました。
今日はこの辺りで。
乙坂鏡史郎
「フーガの技法」、聴かれているのですね。透徹なる世界。凍てつく大地からゆっくりとしっかりと生きてゆく勇気のような、そしてそれは主なるイエスさままで届けようとするような、そんな音楽なのだと思うのです。
私のほうは、アイスランドのピアノ弾きがポツリポツリと呟く、そんなバッハの音盤を聴き始めました。そう、鏡史郎様が、このあいだ紹介してくれたものなんですよ。
それはね、レイキャヴィクという街で収録されています。私たちの高校生時代、西洋史のなかでまるで取り残されたような国の首都です。地図当てクイズで、そこを出題したこと、覚えていますよね。
寒さつのります。お身体ご自愛ください。
はんきち
鏡史郎
鏡史郎さま
ラストレターの思い出を深く感じながら小説もあるようで読んでみたく思っているのですが、何にせ・・・なかなか街中に行けず未だに尾を引いております。
高齢になるともう元には戻っていけないようで人間の性(さが)が身に沁みています。
フーガの技法、私も聴いております。
ほんとうに貴殿のタイトル、クラシック音楽と本さえあれば大丈夫ですね。
又、便りを出させて戴きます。
気候不順の日々、お身体お大切にお過ごしくださいませ。
おようより