カテゴリ:お勧めの本( 1544 )

藤田嗣治の1943年の自画像のことなど

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藤田嗣治の1943年の自画像について友人が書いている。

僕も以前この絵の(藤田の他の絵とあまりに異なる)暗さに衝撃を受けたことがある。

この自画像について近刊『藤田嗣治がわかれば絵画がわかる』という本の中で著者の布施英利氏がこんな風に書いている。

「フジタは、やることが極端なのだ。パリ時代の容姿が、目立つためのコスプレだとしたら、戦争時代の丸坊主(ピアスなし、ちょび髭なし)も、ある意味でコスプレなのではないか。つまり、フジタの丸刈りは、戦時下という時代状況に敏感に反応した、いや反応しすぎた、ある種の演技だったのではないか。」

確かに1920年代の姿も晩年の自身の宗教画の中での彼の姿も、どこか大芝居のように思え(本人は大真面目なのに〉どこか滑稽で少し哀しく思えてくる。

その大芝居は僕には三島由紀夫の生き方と重なって映る。

ボディービルで身体を鍛えたり、聖人に扮して写真に収まったり、そして極めつけはその最後の市ヶ谷駐屯所での究極の大芝居。

演じていなければ不安に押し潰されてしまいそうになる自分という厄介な生き物を、藤田は絵筆で、三島はペンで御そうとしたのかも知れない。

だからこの二人は、近づこうとすると、すっとその姿を消して、気がつけばまるで違う姿をして僕らの前に現れるのだ。
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by maru33340 | 2018-08-20 21:00 | お勧めの本 | Trackback | Comments(1)

いつ果てるとも知れぬ長い物語のように

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秋は夜更けにそっと扉を叩く旅人のようにひっそりと訪れる…

アフェナシェフの弾くシューベルトのピアノ・ソナタ18番の冒頭の旋律を聴くと僕はいつも一抹の淋しさと共に、これから訪れる秋を思いだす。

旅人は部屋に入ると暖炉の側にそっと座り、いつ果てるとも知れぬ旅の長い物語を始める。

シューベルトのこのソナタもまた、旅人の語る終わりのない長い長い物語のようだ。

見知らぬ国の人々の喜びや悲しみに耳を澄ませている内にいつしか暖炉の火は消えていて、もう旅人の姿はどこにもない…
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by maru33340 | 2018-08-19 21:48 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

傑作短編集『満願』を読む

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NHKのドラマで米澤穂信原作の小説『満願』を原作としたドラマが三夜連続で放送された。

数年前友人がブログでこの小説を誉めているのを読んでから気になっていたから「ドラマを観る前に読んでみようかな」と思い立ち、一気に読了した。

これは、ほんとうに凄い短編集だった。

6つの短編それぞれ味わいや文体が違うけれど、いずれも思いがけない展開や「あっ」と唸るラストなど、読み初めたら最後まで読まざるを得ない力がある。

短編集『満願』は山本周五郎賞を受賞しただけでなく、2014年の『このミステリーが凄い』などのいわゆるミステリー3賞で史上初めて三冠を受賞したという。

確かに作者の多彩な才能(と読書量)には驚くばかり。

NHKドラマの第一夜の『万灯』も昨夜観て、こちらもその完成度に打たれました。

しばらく米澤穂信の小説にはまりそうです。
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by maru33340 | 2018-08-17 15:01 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

「帰ってきた」藤田嗣治

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今日は8月15日。
終戦の日。

風邪がまだスッキリせず時折激しく咳き込んでしまうけれど、東京藝大陳列館で開催中の展覧会『1940's フジタトリビュート』の会期が今日までなので、東京都美術館で開催中の『藤田嗣治展』と合わせて見るため上野まで出かけた。

東京都美術館は今日はシルバーデーだったらしく開館前の9時に到着するも既に長い行列が出来ていた。
シルバーデーは65歳以上は入場は無料との事でおそらく98%はシルバーの男女(圧倒的に女性のグループが多い) 。
皆さんお元気です。

展示は初期の1910年代の作品は初めて観るものが多く、(戦争画を含めて)各時代の代表的な作品が集められたまさに大回顧展で、彼が学んだ上野の地での開催だから「もし藤田が生きていたなら「凱旋」と感じたかも知れないなあ」等と思い少し複雑な気持ちになった。

藝大陳列館での『1940's フジタトリビュート』にはさすがに人はまばらで芸大生と思われる若い男女が静かに展示を見ていた。

藤田の作戦記録画の代表作《アッツ島玉砕》(今回の都美の展覧会にも出品)が1943年に展示されたのも上野で、当時その《アッツ島玉砕》の横には藤田が直立不動の姿勢で立っていたとの記録がある。

藝大での展示は75年の時を経て上野に「帰って」くる《アッツ島玉砕》と、1949年に離日してから初めて上野に「帰って」くる藤田を迎えるため、画家の小沢剛氏を中心とした作家がトリビュートという形で作品を発表したもの。

8月15日という日に見るのにふさわしく、その歴史的背景を思い、いろんな事を考えさせられる展覧会でした。

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by maru33340 | 2018-08-15 15:34 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

残暑を乗り切る音楽は

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朝起きて室内の温湿度計を見たら(隣室のエアコンはついているのに)湿度が80%を超えている。
どうりで身体が怠いはずだ。

この怠さを振り切ろうと聴き始めたのはモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」。

演奏はオトマール・スウィトナー指揮シュターツカベレ・ドレスデン、ヨハネス・ワルター(フルート)、ユッタ・ツォフ(ハープ)(1961年録音)で。

フルートの最初の音が鳴り始めると部屋の中を爽やかな風が吹きすぎるようだし、時折かいまみえる憂いの表情が美しい。
この演奏はオケもフルートとハープもキラキラし過ぎることがなく、落ち着いた大人のモーツァルトといった味わいで何度聴いても聴き飽きることがない。

この厳しい残暑を乗り切るには最適の音楽ですね。
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by maru33340 | 2018-08-10 07:02 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

立秋の日に聴くレクイエム

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昨夜、ふと久しぶりにフォーレのレクイエムを聴きたくなり、ヘレヴェッヘ指揮による演奏(2001年録音)を聴き始めた。

柔らかく静かで清みきったフォーレの音楽は、夏の暑さで疲れた心身に染み入ります。

昨日は立秋。

少しずつ秋の気配が増していくこの季節にふさわしい音楽ですね。
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by maru33340 | 2018-08-08 07:31 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

白石一文の「今」

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友人の薦めで白石一文の新しい小説『一億円のさようなら』を読み始め、昨夜一気に読了した。

面白かった。

2000年に発表された『一瞬の光』に衝撃を受けて以来最初はしばらく発表される小説はほとんど読んでいたけど、いつからかあまり読まなくなっていた。

今回の『一億円のさようなら』は初期の思索的な作風にエンターテイメントの要素が加味され、そのバランスがとても良く作者の成熟を感じた。

作者は僕とほぼ同い年。
18年前の『一瞬の光』の頃は僕も40歳。その作品の悲観的なペシミズムとヒリヒリするような味わいに惹かれた。

今、60歳を前にして作者が人生をより肯定的にとらえようとする姿に共感出来た。

そして物語の後半の主要な舞台が、僕が二年間暮らした北陸の街の金沢で、主人公の行く場所や食べ物や酒のひとつひとつが手に取るようにわかり、物語を何倍にも楽しむことが出来て、読みながら無性に金沢を再訪し旨い肴と酒を心ゆくまで楽しみたいと強く強く思ったのでした。
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by maru33340 | 2018-08-07 06:43 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

「うつくしむ」といふこと

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昨夜観たドラマ『花へんろ 特別編』「春子の人形」の中で「うつくしむ」という言葉を知った。

古語として『枕草子』などにも使われている言葉で「慈しむ」「大切に思う」などの意味とのこと。

古語の「うつくし」には現在は「美」の字を宛て、美一般を指す広い感覚の語だが、元来は可憐なものへの感情であったらしい。

日本では、古来「小さいもの、弱いもの、儚いものを大切に思う感情」が「美」と呼ばれていたということは、例えば西洋の絵画の美と日本の絵画の美を比較して考える時の補助線の一つになりそうだ。

ドラマは中の芦田愛菜は子役のイメージから上手に脱皮していて、凛として聡明なそれこそ美しい女優への変貌の予兆を感じた。
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by maru33340 | 2018-08-05 09:12 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

吉田健一のこと、父のこと等

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これはほんとうに迂闊な事だったけれど、昨日8月3日は吉田健一の命日だったことを友人に教えてもらい思い出した。

1977年(昭和52年)。
吉田健一が亡くなった年、僕は18歳。
高校三年の夏のことだ。
(そんな時代もありました)

僕が吉田健一の名前を知ったのはおそらくその少し前のこと。

父の書棚にあった『酒肴酒』(多分1974年刊行の新書版)を取り出して読み「何だか面白いおじさんだなあ」思ったのが最初だと思う。

まだ酒も飲まない高校生の頃だったから果たして何が面白いと思ったのかはわからないけど、そのちょっと人を食ったようなとぼけた文体に惹かれたのかも知れない。

大学に入り『ヨーロッパの世紀末』を単行本で読み(わからないながら)感嘆し、以来彼の本は文庫で出れば購入し、大概は購入したことで満足してしまい(実は通読したのは『金沢』位かも知れないけど)吉田健一ファンであることには変わりはない。

今日は父のお盆の法要で母の暮らす自宅に戻る。
そこは僕が初めて吉田健一の本に出会った場所だ。

鞄に吉田健一の『東京の昔』をしのばせ車中でパラバラと眺めながら、吉田健一とその名前を教えてくれた父を偲ぶことにしたい。

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by maru33340 | 2018-08-04 05:24 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

不思議な幸福感を与えてくれる小説

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三浦しをんさんの小説『あの家に暮らす四人の女』を読了した。

これは読んでいる間も読み終えた後も不思議な幸福感に満たされる素晴らしい小説だった。

世田谷の善福寺川の側に佇む古い洋館に暮らす鶴代と佐知の親子のもとに、佐知の友人の雪乃と多恵美が住むようになり、女四人の暮らしが始まる。

いくつかの小さな事件は起きるけれど、緩やかに巡る季節の中で時はゆっくり過ぎてゆく。

谷崎潤一郎の『細雪』の枠組みを借りながら、作者は随所に思いがけない企みを施す。
(何故表紙に大ガラスが鎮座しているのかの謎も物語半ばにわかります)

会話の中の巧まざるユーモア、登場人物のキャラクターの楽しさ(同じ敷地に暮らす謎の老人山田一郎も良い味を出している)が相まって、幸せな気持ちのまま物語は進み、読み終えて胸の中に暖かいあかりが灯るような気持ちになる。

この物語の登場人物はしばらく僕の心の中に住み続けるような気がします。
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by maru33340 | 2018-08-03 07:35 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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