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雪の上の風雅なフーガのこと

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岩合光昭さんの『世界猫歩き』を見ていたら、砂の上と雪の上に残る猫の足跡の数が異なることに気がついた。

雪の下には石や異物がある危険性が高く、猫はそっと(抜き足差し足で)足を踏み出し、足跡の上に次の足を置くから、雪の上の猫の足跡は砂の上の足跡の数の半分位になっている。

真っ白な雪の中に間隔をおいてポツリポツリ残る楽譜のような小さな足跡を眺めながら、僕はふとバッハの「フーガの技法」の冒頭部分の旋律を思い浮かべた。

その足跡は、最初はおずおずと始まり、やがて冷たい熱をおびながら永遠に続くかと思わせた刹那ふいに途切れてしまう「フーガの技法」の旋律のように、始まり続きそして途切れていた。

今日聴いている「フーガの技法」はピエール=ローラン・エマールによる演奏。

真っ白なキャンバスを思わせる清潔な美しい演奏です。
by maru33340 | 2018-11-30 12:17 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

『フーガの技法』という手紙のこと

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タチアナ・ニコラーエワが70歳で亡くなる2年前に録音した最後のバッハは「フーガの技法」だった。

昨夜、久しぶりのそのアルバムを聴き返して、この演奏が、何とも奥深い深淵にまで行き着いた演奏だったことに改めて気がついた。

そう言えばこの演奏について以前このブログに書いたことを思い出し探してみたら、2年程前にこんな風に書いていた。

「このアルバムには「フーガの技法」の前に「音楽の捧げもの」と「4つのデュエット」が含まれ、最初の一音が鳴った途端に僕らは、漆黒の宇宙の果てなのか群青色の深海なのか定かではない、おそろしく孤独でありながら深い安らぎに満ちた空間に投げ出され、そこで幻想的な星々や海底に微かに射し込む光りの奏でる歌を聴くような音楽に包まれる。

ニコラーエワはその時が終わってしまうことを恐れるかのように、ゆっくりと一音一音を、大切な手紙を誰かに書き残すように弾いていく。

そしてついに未完のまま突然終わりをむかえるその音楽は、悲歌でありながら深い祈りと安らぎの音楽となり、「永遠の時」の秘密を垣間見せる…」

そう「フーガの技法」は、バッハが誰に宛てるとも知らぬまま、後の世に生きる人のために書き残した手紙のような(ある意味では暗号のような)音楽だったのだ。
by maru33340 | 2018-11-29 06:26 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

「つれづれなるまま」の音楽

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最近僕の中でにわかに『徒然草』を読むことがマイブームになっている。

夜寝る前に一つ、二つと飴玉を口の中で転がすようにしながらその短い文章を味わっていると、次第に良い気持ちになってくる。

今朝は、本棚から以前読みかけて中断したままになっていた杉本秀太郎の随筆『『徒然草』を読む』を引っ張り出して少し読み出したら、前には気がつかなかった面白さを発見し、日帰り出張の新幹線の中で続きを読んでいる。

その文章の中で杉本秀太郎がこんなことを書いている。

「ざわめく心の「つれづれなるまま」の即興が、心のもっとも深いところに届いたという実例は、音楽に時折見当たるところである」

そして杉本はその一つの例としてベートーヴェンの晩年の作品である「六つのバガテル 作品126」を挙げている。

バガテルとは「つまらぬもの」「とるに足らないもの」という意味の言葉だけれど、ベートーヴェンの晩年のこの作品は、小さいながら自由と瞑想に聴くものを誘うよう。

杉本はこう続ける。

「バガテルとは、いうならば「心にうつりゆくよしなし事」である。しかも、あの音楽は「あやしうこそものぐるほしけれ」というほかないような感興につながり、音楽そのものによって考える音楽家の「つれづれ」を明かすことをしている」

そんな文章を読みながら、新幹線の中でウォークマンでグレン・グールドによる「六つのバガテル」を聴いていると、確かに「音楽そのものによって考える音楽家」であるグールドとベートーヴェンが時を超えて「つれづれなるまま」なる即興の精神で繋がってくるような「あやしうこそものぐるおしい」気持ちがしてくるようです。
by maru33340 | 2018-11-27 10:18 | お勧めの本 | Trackback | Comments(5)

ポゴレリチのスカルラッティは

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昨夜はふとスカルラッティの音楽が聴きたくなり、若き日のポゴレリチ(写真上)による演奏を聴き始めた。
冷え冷えとした美しさが魅力。

写真下は最近のポゴレリチ。

その風貌はかなり変わったけれど、そのキラキラした蒼い目の色とピアノの音色は変わらない、と思います。
by maru33340 | 2018-11-27 08:08 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

『徒然草』が沁みる午後

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昨日はかなり長時間歩いたので、日頃の運動不足がたたり足が痛く、今日は(お昼を食べに出た以外は)家に引きこもり音楽を聴きながら読書三昧。

最近は京都の宇治に仕事で行く機会が続いたせいか日本の古典が妙に心に沁みる。

今は『徒然草』を拾い読みしているけれど、若い時には読み過ごしていた言葉が実感としてじんわりと心に響いてくる。

例えば第七十五段のこんな言葉、

「徒然わぶる人は、如何なる心ならん。紛るる方なく、唯独り在るのみこそよけれ」

一人過ごす時間の大切さを語るこの言葉はこんな風に続く。

「世に従えば、心、外の塵に奪われて、惑い易く、人に交はれば、言葉、よその聞に随ひて、さながら心にあらず、人に戯れ、物に争ひ、一度は怨み、一度は喜ぶ。其事定まる事なし。分別妄りに起りて、得失止む時なし」

世の中の仕組みに従って生きようとすれば、外のあれこれに心とらわれて、自分が自分ではなくなり様々な迷いが生まれることは、六十歳を前にして自らの越し方を思えば実感として痛いほどわかる。

ではどうすれば良いのか。
兼好はこんな風に語る。

「いまだまことの道を知らずとも、縁を離れて身を閑かにし、事にあづらからずして心を安くせんこそ、しばらく楽しぶとも言いつべれ」

身を静かな所に置き、心を安らかに自由にしておくことこそ、人生をしばらくでも楽しむ生き方である。

確かにその通りだと思う。

実際にはなかなか難しいかも知れないけれど、少しずつ自らの心を安らかな所に置く時間を増やしながらこれからの日々を過ごしたいなあ、などと思います。
by maru33340 | 2018-11-24 15:31 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

モニク・アースのラヴェルの色彩は

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出張帰りの新幹線でモニク・アースによるラヴェルのピアノ曲集を聴く。

彼女の清潔で知的で美しいラヴェルの音色は、連日の移動で少しくたびれた心と身体を癒してくれる。

モニク・アースのラヴェルを色彩で例えるなら「白」だと思う。

この白は、藤原定家のこんな歌の持つ白に似ている。

雲さえて
峯の初雪ふりぬれぱ
有明のほかに月ぞ残れる

この歌の、白に白を重ねていく冷え冷えとした美しさが、モニク・アースの弾くラヴェルの音色に通じるような気がする。

聴き返す度にこの演奏の素晴らしさを改めて実感します。
by maru33340 | 2018-11-22 16:52 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

ブロムシュテットの「田園」を聴く

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NHK「クラシック音楽館」は冒頭に出てくるM…という人の勿体ぶった語り口が苦手で最近はほとんど見なくなってしまったけれど、今夜はヘルベルト・ブロムシュテット指揮によるベートーヴェン「田園」の演奏だったので久しぶりに見てみた。

これは本当に素晴らしい演奏でした。

きびきびした早めのテンポ、指揮棒を使わず手刀を切るような若々しい指揮ぶり、メリハリのくっきりとした音楽作りはとても91歳の人とは思えない。

「雷雨・嵐」の楽章ではその迫力に思わず居住まいを正した。

ブロムシュテットの練習は(その風貌には似合わず)とても厳しいものらしいけれど、醸し出される音楽からは演奏する悦びが溢れ出るよう。

ブロムシュテットさん、見るたびに若返っているような気さえします。
by maru33340 | 2018-11-18 22:03 | お勧めの本 | Trackback | Comments(6)

風立ちぬ、いざ生きめやも

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今朝、空を眺めれば一面に層状雲が広がる。
白と青のコントラストが美しい。
久しぶりに頭を上げて空を眺めるような気がします。

「風立ちぬ、いざ生きめやも」

まだまだ人生には美しいものがある。
聴きたい音楽も読みたい本もたくさん残っている。

友人の分もまた生きなくては、日々の生活の中にささやかな悦びを見つけながら暮らして行かなくては、と思う朝です。
by maru33340 | 2018-11-17 08:41 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

朝のインヴェンション

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昨夜少し胃が痛く早めに横になったので、今朝は朝早く目覚める。

ふとバッハが聴きたくなり、久しぶりにピーター・ゼルキンの弾くバッハのインヴェンションとシンフォニアを聴く。

奇をてらうことない、繊細で静かで柔らかな音色のバッハを聴いていると少しずつ心が鎮まり整ってくるような気がする。

やはり行き着く所はバッハ、改めてそう思います。
by maru33340 | 2018-11-17 05:27 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

記憶の中に人は生き続けること

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学生時代の友人の通夜に参列し掛川に戻る新幹線の中で、福岡伸一さんの著者『動的平衡 ダイアローグ』を読む。

その対談の中でカズオ・イシグロの語るこんな言葉を見つけた。

「ジョージ・ガーシュウィンに「They Can't
Take That Away from me」という曲があるんです。「誰も私からそれを奪うことはできない」―ここでいう「それ」とは記憶です。記憶とは、死に対する部分的な勝利なのです。」

「私たちは、とても大切な人々を死によって失います。それでも、彼らの記憶を保ち続けることはできる。これこそが記憶のもつ大きな力です。」

記憶の中に友人がいる限り、彼はある意味では生き続けているのだ、と思います。
by maru33340 | 2018-11-15 22:49 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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