最近吉田秀和さんの『私の好きな曲』を読み返していて、ベートーヴェンの第九の推薦盤としてセルの演奏について書かれたこんな文章に再会した。
「ベートーヴェンがこの音楽にこめたすべてのものを、最も忠実正確に、そうして最も高度の音楽性をもって再現しようとして真正面から立ち向かっているのが、この演奏」
この文章を読みどうしてもその演奏が聴きたくなり、今日Amazonから届いたばかりの、ジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団によるベートーヴェン交響曲全集を(驚き感心しながら)聴き続けている。
なんと素晴らしいベートーヴェンだろう。
その音楽は、高度な技術を持ったアスリートの身体の動きのように、無駄なく引き締まりしなやかな美しさに満ちている。
スピードと力強さがありながら、余計な力はどこにも入らず余裕さえ感じる。
鋭い切れ味と深い味わい、音楽が前に進む力と歌心のたぐいまれな共存がここにはあり、聴いていて耳と身体に喜びが溢れてくる。
これからも繰り返し聴くであろう愛聴盤がまた一枚増えました。
クラシック音楽の楽しみはまさに無限に広がっているとしみじみ思う年の暮れです。