「愛を歌うと悲しみになり、悲しみを歌うと愛になる」とシューベルトは言った

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すっかり冬らしい気候になった今週、一日の終わりに夕食を終え、シューベルトの音楽を聴くのが最近の楽しみ。

今日は高橋アキさんのピアノでシューベルト晩年の作品〈3つのピアノ曲〉を聴く。

僕が特に好きな曲は第2番。

このアルバムのライナーノーツの喜多尾道冬さんのこんな言葉がこの曲と演奏を端的に表現している。

「シューベルトは「愛を歌うと悲しみになり、悲しみを歌うと愛になる」と言ったが、愛と悲しみが表裏一体となってあらわれるのが「歌」である。哀しいものは美しく、美しいものは哀しいとも言い換えられ、高橋はその「歌」の根幹に触れる」

この曲の中で歌われる切なさに満ちた旋律は、確かにとても哀しいのに、やがてその旋律は心の奥底に沁みていき慰めに変わるのだ。
# by maru33340 | 2018-12-13 21:39 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

吉田健一の考える「幸福」

吉田健一の娘である吉田暁子さんの言葉を読み返していて、以前には気がつかなかったことに気づいた。

「屈託なく生きる」とはどのようなことなのか、つまりは「幸福」とは何かについて考えるためのヒントがここにはあるようだ。

「何かを本当にするにはそれに馴染んでいなければならない。馴染むには繰り返さなくてはならない。来る日も来る日も一つのことだけをしていれば勿論そのことに馴染むはずだが、人間には一つのことだけをして生きることはできない。一つのことだけでは満足できないし、したいことだけをしていて済むわけでもない。寝食を忘れてというが、いつまでも忘れているわけにはいかない。当然それぞれのことに適宜に時間を割り振る必要がある。割り振る他ないのであって、それを呪うなら、「生まれてこなければよかった」ということになる。日が出てから日が沈むまで刻々と変る庭の趣きをどれも善しとするように、いくつもの、それぞれ質の違ったことを順々にして一日を過ごすのを善しとすることで、一人一人の人間がそれぞれその人間として確かに、自然に、屈託なく生きることになる。」
# by maru33340 | 2018-12-13 07:19 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

「冷たい雨の降る夜シューベルトのピアノ・ソナタを聴くこと」

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数日前の暖かさが嘘のようにぐっと冷え込み淋しい雨も降るこんな夜にはシューベルトのピアノ・ソナタが聴きたくなる。

最後のソナタの21番を聴くにはまだ少し早いからまずは18番《幻想ソナタ》を。

その音楽は、夜更けに訪ねてきた人が遠慮がちにそっと戸をたたく音のような柔らかい旋律で始まり、同じ旋律が変奏されながら幾度となく繰り返される。

それはまるで目的地を定めぬさすらいのようで聴いていると次第に白昼夢の中にいるような気持ちになる。

演奏は田部京子さんのピアノで。
緩やかなテンポと柔らかい音色がこの曲にふさわしい。
# by maru33340 | 2018-12-11 21:37 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

『三島由紀夫ふたつの謎』を苦労しながら読了する

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大澤真幸氏の『三島由紀夫ふたつの謎』を何日かかけてアンダーラインを引きながら苦労して(ようやっと)読了した。

「三島由紀夫はなぜ切腹という衝撃的な最期を遂げなければならなかったのか」
「小説『豊穣の海』のラストはあの終わり方でよかったのか」

というふたつの謎に対して、三島由紀夫の小説の中から答えを導きだそうという意欲的な取り組みは、推理小説を読むようなスリルがある。

哲学的な議論も含まれ決して簡単に読める内容ではなかったし、わからない所も多数あった。

それでも久しぶりに本格的な評論を読んだという充実感は残りました。
(後半かなりしんどかったけども…)
# by maru33340 | 2018-12-09 16:44 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

ようやく「クリスマス・オラトリオ」を聴く季節に

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12月になり、冬らしい寒さが訪れたら聴こうと思っていたバッハの「クリスマス・オラトリオ」をようやく聴ける気候になってきた。

演奏はジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリス・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団で。

ガーディナーのいきいきとした歯切れのよい指揮によるオーケストラの響きはとても心地良く、合唱団の上手さ、ソリスト達の歌唱の美しさ、どれをとっても文句の付け所がない素晴らしい演奏。

冒頭のティンパニ―が鳴り始めると心がワクワクしてきて、最後まで楽しみながら聴き終えることができる。

数あるバッハの音楽の中でも楽しさという点では「クリスマス・オラトリオ」は一番。
(ふいに「マタイ受難曲」の合唱の旋律が現れる所もとても美しい)

もしこれからバッハの音楽を聴こうかなと思っている方がいらっしゃったら、僕はまずこの「クリスマス・オラトリオ」をお薦めしたいと思います。
# by maru33340 | 2018-12-09 09:25 | お勧めの本 | Trackback | Comments(5)

ここにただ美しい音楽があれば

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先日入手したアンネ・ゾフィー・フォン・オッターのアルバムにデュリュフレの「レクイエム」の中の「ピエ・イエス」が収められていて、後れ馳せながらその美しさを知り、初めてデュリュフレの「レクイエム」のアルバムを入手し昨夜聴き始めた。

フォーレのレクイエムをお手本とし1947年に作曲されたこの曲はグレゴリオ聖歌の旋律を用いた古典的な作品。

その静謐なたたずまいはまさにフォーレを思わせる。

遥か古代から微かに聴こえてくるような冒頭からその世界に引き込まれ、天界から降り注ぐような透明な合唱に心を洗われる。

作曲された年代から考えれば確かに古典的に過ぎる作品かも知れない。
しかしこの「サンクトゥス」や「ピエ・イエス」の美しさの前には、新しいとか古いとかいう価値観は無意味のような気がする。
「ここに美しい音楽がある」
ただそれだけで良い。
# by maru33340 | 2018-12-06 07:33 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

田宮二郎のこと

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40年前。

『白い巨塔』という稀有の傑作ドラマを残して一人の俳優が逝った。

田宮二郎、享年43歳。

僕はその時19歳。
シャープで陰影の深い彼のシルエットにひかれた。

先日、彼の最後の日々を、女優であり妻である幸子夫人の証言を元に描いたノンフィクション『田宮二郎の真相』を読了した。

苦しかった。

しかしそれ以上に苦しかったのは田宮二郎自身だっただろう。

クールな2枚目という虚像を生きながら、過剰なまでの上昇志向と自らの置かれた現実のギャップに苛まれ、次第に精神のバランスを失っていく、早すぎる晩年の日々は想像を絶する凄絶なものだった…
# by maru33340 | 2018-12-03 20:41 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの新しいアルバム『A SIMPLE SONG』のこと

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アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの新しいアルバム『A SIMPLE SONG』が届いたので聴き始めた。

これは実に素晴らしいアルバムでした。

「祈り」をテーマに選ばれた、彼女が愛してやまない歌の数々がベンクト・フォシュベリの弾くオルガン伴奏により丁寧に歌われ、彼女の優しく聴くものを包み込むような歌声が柔らかく真っ直ぐに心に届きます。

アンネ・ゾフィー・フォン・オッターはスウェーデンの宮廷歌手として(このアルバムが録音された)ストックホルムの聖ヤコブ教会でそのキャリアをスタート。
教会の青少年合唱団で歌い、教会で行われているバッハの『マタイ受難曲』コンサートのソロに起用され、1982年、最初のソロ・コンサートをこの教会で行った、とあります。

このアルバムは「祈り」をテーマにしながらも「典礼の手かせ足かせを逃れ、自然に湧き出る賛美の心を高らかに歌え」を基本のスタンスとして歌われており、
自身の故郷の教会で歌われていると言うこともあって、どの曲も親密な懐かしさに満ちています。

12月という月に聴くのもまたふさわしく、音楽好きな方へのXmasプレゼントとしても最適なアルバムかも知れません。

(以下、収録されている曲の情報を転記します。
最後の「サウンド・オブ・ミュージック」のテーマを聴きながら涙が止まらなくなったことを告白します)

1.バーンスタイン:シンプル・ソング(スティーヴン・シュウォーツ、レナード・バーンスタインの詩、ミサ曲より)
2. コープランド:オルガンが話すのを時々聞いた(エミリー・ディキンソンの詩)
3. アイヴズ:静穏(ジョン・グリーンリーフ・ホイッティアーの詩)
4. マーラー:3人の天使がやさしい歌を歌い(『子供の不思議な角笛』の詩)
5. マーラー:原光(『子供の不思議な角笛』の詩)
6. R.シュトラウス:たそがれの夢(オット・ユリウス・ビーアバウムの詩)
7. R.シュトラウス:あした!(ジョン・ヘンリー・マッケイの詩)
8. ペルト:わが心はハイランドにあり(2000)(ロバート・バーンズの詩)
9. デュリュフレ:ピエ・イエズ(レクィエムより)
10. メシアン:3つの歌(1930)
なぜ?(オリヴィエ・メシアンの詩)
ほほえみ(セシル・ソヴァージュの詩)
行方不明の婚約者(オリヴィエ・メシアンの詩)
11. プーランク:平和への祈り(シャルル・ドルレアンの詩)
12. マルタン:アニュス・デイ(レクィエムより)
13. ペルト:何年もの昔、歌っているのを聞いた(1985)(クレメンス・ブレンターノの詩)
14. リスト:アヴェ・マリア S.60
15. ロジャーズ:すべての山に登れ(オスカー・ハマースタイン二世の詞、『サウンド・オブ・ミュージック』から)
# by maru33340 | 2018-12-02 16:39 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

長き序章の先にあるものは

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昨夜、夜中に目が覚め、乙川優三郎の新しい小説『二十五年後の読書』を読み始めたら、ぐいぐいとその物語に引き込まれて最後まで読了してしまった。

乙川の時代小説は読んだことはなかったけれど2016年に発表された初めての現代小説『脊梁山脈』を読み、現代には珍しい骨太な本格的文学に圧倒され、以来彼の現代小説は読み続けてきた。

この『二十五年後の読書』は、書評家である女性の主人公とその恋人である小説家の物語を軸に、カクテルや海外への旅が物語を彩る。

一見華やかな舞台背景でありながら、物語の奥行きは深くその文章や交わされる文学論は読みごたえがある。

物語の中で最後に語られる小説『この地上において私たちを満足させるもの』は、12月に書き下ろし長編として実際に刊行されるというから、この物語はそれにいたる長い長い序章ということになる。

12月の刊行を心待ちにしています。
# by maru33340 | 2018-12-01 07:02 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

雪の上の風雅なフーガのこと

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岩合光昭さんの『世界猫歩き』を見ていたら、砂の上と雪の上に残る猫の足跡の数が異なることに気がついた。

雪の下には石や異物がある危険性が高く、猫はそっと(抜き足差し足で)足を踏み出し、足跡の上に次の足を置くから、雪の上の猫の足跡は砂の上の足跡の数の半分位になっている。

真っ白な雪の中に間隔をおいてポツリポツリ残る楽譜のような小さな足跡を眺めながら、僕はふとバッハの「フーガの技法」の冒頭部分の旋律を思い浮かべた。

その足跡は、最初はおずおずと始まり、やがて冷たい熱をおびながら永遠に続くかと思わせた刹那ふいに途切れてしまう「フーガの技法」の旋律のように、始まり続きそして途切れていた。

今日聴いている「フーガの技法」はピエール=ローラン・エマールによる演奏。

真っ白なキャンバスを思わせる清潔な美しい演奏です。
# by maru33340 | 2018-11-30 12:17 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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