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「山本直純がやってきた」

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先日から聴き続けているジョージ・セル指揮によるウィンナ・ワルツ集には、ヨハン・シュトラウス2世による「常動曲」が収められている。

毎年恒例のニューイヤーコンサートでもお馴染みのこの曲は、また(ある程度以上の年齢の方にはお馴染みの)山本直純司会・指揮による番組『オーケストラがやってきた』のテーマ曲としても有名だから、あのサビの部分に来ると山本直純がダミ声で歌う「オーケストラがやってきた~」という声が聞こえてきてしまい、何となく彼の赤いジャケットを思い出していた。

そして今夜、彼を取り上げた『山本直純 音楽の底辺を広げた男』という2時間のドキュメンタリー番組があると偶然知り、見終わった僕は山本直純という人のことを何も知らなかったなあとため息をついた。

若くから天才の名をほしいままにし、小澤征爾や岩城宏之と深い友情で結ばれ、海外のオーケストラを指揮することを夢見た彼は、視力の低下によりその夢を諦めざるを得なくなる。

海外に向かう小澤征爾に彼は「お前はピラミッドの頂点を行け。俺は音楽の底辺を広げる」と語ったという。

その後の彼は、時には自ら道化となることも厭わず「男はつらいよ」などの数々の映画音楽や童謡の作曲も手がけ、クラシック音楽の普及に生涯を捧げた。

69歳という若すぎる最後は悲しいけれど、(山本直純に風貌がそっくりな)二人の息子さんが、父の後を継ぎ音楽家となっていると知り、自分のことのように嬉しくなったのでした。
# by maru33340 | 2019-03-16 21:29 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

ジョージ・セルの郷愁

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どこで読んだのか出典が明らかではないけれど、少し前に、往年の名歌手エリザベート・シュヴァルツコップが「無人島に持っていきたいレコードは?」という問いかけに「ジョージ・セル指揮によるワルツ集」と答えたという記事を読んだ。

僕は最近セルの音楽にはまり少しCDを集めたけれど、ワルツ集は持っていなかった。
シュトラウス・ファミリーのワルツとあの厳格なイメージのセルがちょっと結びつかなかったこともある。

しかし、マーラーやリヒャルト・シュトラウスの演奏でセルと共演し名盤を残し、何と言っても『薔薇の騎士』の伯爵婦人のイメージが強いシュヴァルツコップをして「無人島に持っていきたい」とまで言わせたウィンナ・ワルツなら是非聴いてみたいと思い(思わず)取り寄せてしまった。

これは予想を遥かに超えた素晴らしいワルツ集だった。
何よりいかにもセルらしい甘さを拝した精緻で清潔な音楽が、聴きなれたウィンナ・ワルツの新しい魅力を見せてくれる。
そして所々ふとした表情に微かな郷愁が漂うのがほんとうに美しい。

そう言えば、ブダペストに生まれたセルは3歳からウィーンで学び、デビューもウィーン交響楽団だった。
ハプスブルグ帝国の残照の中で青春時代を過ごしながら、時代の流れの中でユダヤ人としてアメリカに移り住むことを余儀なくされたセルにとって、シュトラウス・ファミリーの音楽は故郷への望郷の思いにつながる音楽だったのかも知れません。

追伸

教えていただき、シュヴァルツコップが「無人島に持っていきたい」と言ったのはフリッツ・ライナーのワルツ集だったとのこと。
ただこの間違いのおかげでセルの素晴らしいワルツ集に出会えたのは幸福なことでした(^^;

# by maru33340 | 2019-03-15 07:57 | Trackback | Comments(4)

吉田秀和さんの語るグールドは

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吉田秀和さんの『バッハ』に導かれてグレン・グールドによるバッハ「インヴェンションとシンフォニア」を聴き返す。

吉田さんはグールドのバッハについてこんな風に書く。

「絵に類えて言ってみればデッサンのようなもので、色も、それから丸い立方体もない描き方のように見えて、その線一本の動きのなかに、無限の変化があるといった趣の演奏」

なるほど「デッサン」という視点でグールドのバッハを聴いたことがなかったから新鮮な驚きがある。

更に吉田さんは
「グールドのバッには、何ともいえぬリリシズムがあった」
と言ってこんな風に続ける。

「グールドの演奏の特徴は、リズムの均一とイン・テンポは、原則として、あくまで崩さす、ゆるめずにいくのである。そのうえで、強拍や弱拍のアクセントの交代に当たって、フレーズの終わりにちょっとしたニュアンスの変化、テンポのたゆたいを、そっと目立たないようにおく。すると、それだけで、音楽に、器械的な均一ではない、小さな生気が見られ、艶がでてくるのである」

今まで何気なく聴いていたグールドのバッハも吉田さんの言葉を通して聴くと「なるほどこんな風に弾いているから良いと感じるのか!」という発見があり、目の前の霧が晴れたようにスッキリする。

そして「これこそ音楽批評だなあ」と改めて思うのでした。
# by maru33340 | 2019-03-14 07:06 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

シフの弾くパルティータは

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吉田秀和さんの文庫になった『バッハ』を読んでいて、アンドラーシュ・シフの弾くバッハのパルティータについて書かれた文章に出会った。

僕がモダンピアノの演奏によるバッハの鍵盤曲の魅力に気づいたのは銀座の山野楽器でマレイ・ペライアによるパルティータのアルバムを視聴した時だった。
たっぷりとした柔らかく美しい音で奏でられる(ロマンチックと言っても良いような)ペライアのバッハ演奏に魅せられすぐにレジに走り、繰り返しその演奏を聴いた。

以来、色々なピアニストによるパルティータを聴き、どの演奏もそれぞれ面白かった。
グレン・グールドによるパルティータは、ペライアと比較して聴くと一層面白く、改めてグールドの演奏の独創性に気づいた。

シフのパルティータは少し前に入手し一度聴いただけで何となく聴かないままになっていたけど、吉田さんの文章を読み再び聴き返して、この演奏の弱者の美しさ、自然な装飾音の心地よさに気づいた。

落語に例えるなら、ペライアの演奏を円熟した名人の語るトリの噺だとすれば、グールドの演奏は鬼才と呼ばれる新作落語の天才の語り方。
それに比べて、シフの演奏は柔らかい語り口でさらりと語られた中堅真打ちによる人情噺のよう。

三人三様、それぞれの味わいを楽しめるのが落語の(いやいや音楽の)醍醐味ですね。
# by maru33340 | 2019-03-13 06:54 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

文庫で読む吉田秀和さんの『バッハ』

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昨日、出張帰りに日本橋のMARUZENに立ち寄り、河出文庫の新刊として吉田秀和さんの『バッハ』という本が出ているのを知り入手してしまった。
(おそらく内容は僕の持っている他の本でも読めると知りつつ…)

しかし、詩人の小池昌代さんによる解説がとても面白かったので入手して良かった。

小池さんはバッハについてこんな風に書く。

「クラシック音楽、なかでもとりわけバッハの音楽を、私たちは究極の喜びとして聴きながら、同時に単なる愉楽でなく、存在の深みのようなところで受け止めているだろう。バッハの音楽は、ロマン派の音楽を聴くときのようには、感情が揺さぶられることがない。むしろこちらの生々しい感情が、紙束でもそろえるようにとんとんと整えられていく。数に支配された極めて構造的・秩序的な音楽であるが、インヴェンションにしろ、ブランデンブルクにしろ、聴いていると(弾いていても)、命の底がふつふつと沸騰してきて、体が前のめりになり、歓喜という言葉がふさわしいような、大きなよろこびに包まれる」

「紙束でもそろえるようにとんとんと整えられていく」という表現はいかにも詩人らしい表現で思わず「なるほどなあ」と納得してしまいました。
# by maru33340 | 2019-03-12 07:34 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

「さよならだけが人生」なのか

昨夜は一晩中激しい暴風雨が続いた。

それはまさに春の嵐で、その荒れ狂うような風の音を聞くと必ず思い出す詩がある。

干武陵の「勧酒」という漢詩を井伏鱒二が訳した『厄除け詩集』の中のこんな詩。

勧酒(井伏鱒二訳)

コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

読み返す度に「シビレルなあ」とため息をつく。

この詩を受けて寺山修司が書いた「幸福が遠すぎたら」という詩もまたこんな風に始まるいかにも寺山修司らしい詩。

さよならだけが人生ならば
さよならだけが人生ならば         
また来る春は何だろう 
はるかなはるかな地の果てに
咲いている野の百合何だろう

そして僕らは三月の声を聞くとやはり八年前に起きたあの大震災のことを思い出さない訳にはいかないから、井伏鱒二や寺山修司の言葉が一層深く胸に突き刺さるようです。


# by maru33340 | 2019-03-11 07:02 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

アフェナシェフの弾く「月の光」

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『テスタメント(遺言)』というタイトルのヴァレリー・アフェナシェフの新しいアルバムにはドビュッシーの「ベルガマスク組曲」が収められていると知り「あのアフェナシェフが弾くドビュッシーは果たしてどんな演奏だろう」ととても興味を持った。

しかし、6枚組のアルバムを手に入れることは(モノを減らしたい僕には)とても苦しい。

でも諦めきれず悶々としていたら、今日たまたま見ていた音楽ダウンロードのサイトにアフェナシェフの新しいアルバムが掲載されていて1曲からダウンロード出来ることを知った。

日頃アルバムは総合芸術だと思っている僕にとってそれは禁断の選択だったけど「どうしても聴いてみたい!」という誘惑に負けて「ベルガマスク組曲」だけをダウンロードしてしまった(嗚呼)

アフェナシェフの弾く「月の光」は予想と期待を超えた、まるでこの世の音楽とは思えないような、すべての生物が滅びた星に射し込む月の光のように蒼白く冴え冴えとした、しかしとても美しい音楽だったのでした。
# by maru33340 | 2019-03-08 06:50 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

久しぶりに聴く『詩人の恋』

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昨夜、ふとフリッツ・ヴンダーリッヒの歌うシューマンの『詩人の恋』が聴きたくなり久しぶりに聴き始めた。

このアルバムを毎日毎晩聴いていたのは大学に入ってすぐのことだから、今から40年程前のことになる。
その頃、父の関西転勤に伴い早稲田にある小さな下宿屋に住んでいて『詩人の恋』に合わせてついつい歌っていたら下宿のおばさんに怒られたことを昨日のことのように思い出す。

ヴンダーリッヒの声はほんとうに素晴らしく、僕には彼の歌う『詩人の恋』以上の演奏はない。
(同じアルバムに収められたベートーヴェンの歌曲も心が晴れ晴れするような爽やかな名演)

シューマンの心にあるロマンティックな憧れや青春の痛み、恋を失った哀しみに久しぶりに触れ、少し忘れかけていた感情が動き出すのを感じた春の夜でした。
# by maru33340 | 2019-03-06 07:30 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

「負けない力」といふこと

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昨日は冷たい雨降る東京へ日帰り出張。

出張帰りに立ち寄った本屋で見つけた本の『負けない力』というタイトルが気になりつい買ってしまう。
(もう本は増やすまいという決意をしたばかりなのに)

著者は先日逝去された橋本治さん。

まだ「まえがき」にしか目を通していないけど、橋本さんによると
「この本で言う「負けない力」とは、知性のことです」
とのこと。

橋本さんはこんな風に書く。
「現代で必要とされるのは、「負けない力」などという薄ぼんやりしたものではありません。もっと明確で積極的な「勝てる力」です。「勝てる力」の実効性、有効性に比べたら、「負けない力」である「知性」なんかは、あってもなくてもいいようなものものです」

まあ、確かにそうかも知れない。

けれども、と橋本さんは続ける。
「「知性」というのは、「何の役にも立たない」と思われているものの中から、「自分にとって必要なもの」を探し当てる能力でもあります」

なるほど、と思う。

60歳からの生き方に必要なものは、与えられた困難にたいして、片ひじ張って闇雲にファイティングポーズを取るような生き方ではなく、心身の力を抜いて(知性を使って)ひょいひょいと身体をかわして負けないようにする生き方なのかも知れません。

# by maru33340 | 2019-03-05 06:46 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

小説は時代を映す鏡

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この所寝る前に読み続けていた斎藤美奈子さんの『日本の同時代小説』を読了。

1960年代から2010年代までの小説を取り上げ、それぞれの時代背景とその時代を代表する小説への的確な批評は、斎藤さんならではの切れ味でとても面白い。

僕が生まれたのは1959年だから、ほぼ生きてきた時代の同時代小説史となっているのも感慨深い。

ただ、僕が読んできたのは1990年代位までの小説で2000年代以降は未読の作家も多い。

おそらく斎藤さんも多くの読者がそうだと考えているようで、2000年代以降は取り上げる小説の内容を少し丁寧に紹介している。

扱うテーマも2000年代以降は、格差、貧困、戦争、大震災、原発ディストピアなどかなり深刻で読んでいて苦しくなるようなものが多い。

小説は時代を映す鏡。
これからの時代を考えてしまいました。
# by maru33340 | 2019-03-04 07:28 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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