『万引き家族』という聖なる光に満たされた映画について

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是枝監督の映画作品『万引き家族』を観た。

カンヌ映画祭でパルム・ドール賞を受賞してしまったので(例の僕の天邪鬼の虫が騒いて)観ようかどうか少し迷っていたけれど、ある方のフェイスブックの投稿を読み「これはどうしても観なくては」と思い返し早速今日の午前中映画館に出かけた。

観て良かった。

映画は最初は淡々と始まる。

(疑似)家族が住む家は狭く、人目を避けるように(避けなければならない理由があるから)奥まった立地にある。
部屋の中は乱雑で足の踏み場もなく、その食事シーンは貧しい。
しかしそこには不思議な幸福感がある。
(特に皆で海辺に出かけ遊ぶシーンの哀しみに満ちた美しさは例えようもない)

六人の登場人物は、演じているというよりこの映画の中の世界を生きているよう。

樹木希林の飄々とした中にあるしたたかさ、リリー・フランキーの卑屈な姿の中にある父性、安藤サクラのしどけなく崩れた姿に潜むラスト近くに現れる聖女の輝き。

松岡茉優は大人と子役をつなぐ位置にあり、時折垣間見える無限の包容力に癒やされる。
(ワンシーンだけ登場する池松壮亮の演技も印象的で、今『金閣寺』を映画化するなら寺を焼いた若い僧侶の役は間違いなく彼だろうと思った)

そして何より特筆すべきは子役二人の無垢な魂の表現。
二人が駄菓子屋へ向かいとぼとぼと歩くシーンは見ているだけで涙が出てきて、今もまだ脳裏を去らない。

この映画は、およそ社会の底辺の環境の中にありながらも失われない、人の心の中にある聖なる光への是枝監督のオマージュであり、カンヌ映画祭で世界中の映画人から高い評価を受けたことに納得できる作品だった。
(そうそう、細野晴臣の音楽が素晴らしい事もこの映画の成功の大きな要素であることも忘れてはいけない)


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# by maru33340 | 2018-06-16 20:04 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

二つの金閣寺

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ブログ友のお薦めの『金閣寺の燃やし方』(酒井順子著)を読了した。

実に面白かった。

この本は、同じ昭和25年の金閣寺放火事件をテーマとして取り上げながら、全く異なる小説を書いた、三島由紀夫と水上勉の資質の違いに着目して(小説の現場や事件の現場にまで実際に足を伸ばして)丁寧に読みといていく。

酒井順子という著者を『負け犬の遠吠え』の人としてしか知らなかった僕はその不明を恥じた。

僕は三島の『金閣寺』しか読んだことはなかったけれど、この本を読了して水上による『金閣炎上』を無性に読みたくなった。
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# by maru33340 | 2018-06-16 06:34 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

別の惑星の音楽としてのドビュッシー

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久しぶりにクラウディオ・アラウの弾くドビュッシーの「ベルガマスク組曲」を聴きたくなった。

アラウはドビュッシーの音楽の事を「別の惑星の音楽のようだ」と語っていて、確かにその極端に遅く一音一音を慈しむようなアラウのピアノの音を聴いていると、いつの間にか遠い宇宙の果てをさ迷っているような気持ちになる。

僕はこの演奏を聴いていると、何故か宮崎駿のアニメ映画『天空の城ラピュタ』のラスト近くに出てくる、ロボット兵が仲間の兵士の墓標に一輪の花を捧げるシーンを思い出し泣きそうになってきてしまうのだ。
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# by maru33340 | 2018-06-15 07:44 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

鮮やかな空

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今朝。

鳥たちの鳴き交わす声で目が覚めベランダに出れば、外はひんやりと涼しく、鮮やかな朝焼けが空一面に広がっていた。

遠くに小さく富士山のシルエットも浮かぶ。
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# by maru33340 | 2018-06-14 04:35 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

「今日は台風が近づいているから本を読もう」

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東海地方にも台風は接近中で、まだ雨は降っていないけれど激しい風がマンションを揺らし始めた。

こんな日は部屋に引きこもり、先日入手した松岡正剛さんの『千夜千冊』を再編集して文庫化された『千夜千冊エディション』をパラバラ眺めよう。

資生堂名誉会長の福原義春さんも「21世紀の日本人は読まねばならぬ」とおっしゃっていることですから。
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# by maru33340 | 2018-06-10 10:07 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

昨日の誠 今日の嘘

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東海地方も昨日梅雨入りし、昨日今日はいかにも梅雨らしい雨模様。

今日は朝一番の新幹線で日帰り出張に向かう。
窓から見える山並みには低く重たい雲がたなびく。

何となく気だるい気持ちで窓からの景色を眺めながら紫陽花をうたった正岡子規のこんな句を思い出した。

「紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘」

日々移り変わる紫陽花の色に人の心の変わりやすさを重ねたのだろうか。

写生を提唱した子規には珍しい彼の心模様が透けてくるような少し不思議な句です。
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# by maru33340 | 2018-06-07 07:54 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

地球の重さを

この間のフジジテレビの『ぼくらの時代』という番組に建築家の安藤忠雄さんが出ていて(あの独特のダミ声の大阪弁で)こんな事を言っていた。
「私は、事務所に新しく入ってくる人に「あなたは地球儀を持っていますか?」と聞くんです。大概の人は持っていないから「自分で作って持って来なさい」というと、それぞれボールや粘土で作った地球儀を持ってくる。そういう経験を通して世界はどうなっていて、日本がどこにあり、どんな大きさなのかを改めて知るのです」
記憶で書いているから少し言葉使いは違うかも知れないけど、安藤さんは概念ではなくリアルなものとして地球というものを感じなさい、という事を言いたかったのかも知れない。

そんな安藤さんの言葉を思い出し、今、南フランスを徒歩で行脚している先輩の日々のフェイスブックの投稿を見ながら「先輩は今自分自身の足で地球を感じているのだなあ」と思い、果たして僕は今自分自身の身体で地球を(そこに今生きている自分を)感じているだろうか、とふと自省した。
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# by maru33340 | 2018-06-05 19:33 | お勧めの本 | Trackback | Comments(2)

平野啓一郎の『ある男』のこと

友人の薦めで先日入手した雑誌「文学界」に掲載された平野啓一郎の小説『ある男』を昨日一気に読了した。

とても良かった。

「あり得たかも知れない別の人生」というテーマは小説や映画では比較的よくあるテーマだけれど、ここまでリアリティーを持って描かれたことはあまりなかったと思う。

謎解きの要素もあるので詳しくは書けないけれど、じわりじわりとヴェールを剥がすように人の過去と心の闇が明らかになっていく物語には力がある。

上質の映画を観ているような味わいもあり「成瀬巳喜男監督によって映画されたら切々とした後味のある映画になるだろう。その時の配役はこうなるだろうな」などと考えながら読み進めていた。
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# by maru33340 | 2018-06-03 06:20 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

ホロヴィッツの弾くスカルラッティは

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久しぶりにホロヴィッツの弾くスカルラッティのソナタを聴く。

学生の頃はその魅力に気づかなかったスカルラッティやラモーの音楽の面白さに目覚めたのは10年程前のこと。
確か小川洋子さんの小説『やさしい訴え』で語られていたラモーの音楽に興味を持ったから。

一見軽やかなその音楽に潜むどこか不穏で深い湖の底を覗きこむような深淵がふいに現れるのを感じてから、折に触れてその音楽を聴くようになった。

それはホロヴィッツがスカルラッティの音楽について語ったこんな言葉からも感じることが出来る。

「この音楽は、宮廷的なものから粗野なものまで、甘い優美さから苦い厳しさまでを含んでいる。その陽気さは、一抹の悲劇的な気分の低流のために一層激しいものになる。瞑想的なメランコリーを打ち破って、時折オペラ的な情熱の外交的な気分が押し出してくる」

スカルラッティの音楽の複雑な味わいをとても良く表現した言葉だし、彼の弾くスカルラッティはまさに上の言葉を体現しているようです。
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# by maru33340 | 2018-05-31 06:59 | お勧めの本 | Trackback | Comments(3)

驚くべき「ダフニスとクロエ」

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最近クリュイタンス指揮によるラヴェルの「ダフニスとクロエ」全曲を聴き、組曲ではない全曲版を聴く喜びに目覚め、フランスの指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクルによる新しい演奏を聴く。

これは驚くべき演奏だった。

冒頭極めて微かな響きの中、フルートによる旋律が聴こえ、遥か彼方から合唱の声が聴こえてくる瞬間身体は遠い古代に連れ去られる。
その幻想的なこと。(録音も素晴らしい)

初演時の楽器による演奏は透明な空気感を持つと共に、力に満ちた激しい推進力も備えて、まるで初めてこの曲が演奏される瞬間に立ち会っているような新鮮な喜びを感じる。

しばらくフランソワ=グザヴィエ・ロト(発音しにくい)という指揮者の演奏を追いかけることになりそうです。
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# by maru33340 | 2018-05-27 07:33 | お勧めの本 | Trackback | Comments(4)

音楽・本・映画などについての私的な感想


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